ナナシ 1/2

今から数年前、

僕と僕の友人だった人間が、

学生だった頃の話。

 

時は夏休み。

 

自由研究のため、

僕は友人(仮にナナシとする)と、

心霊現象について調べることにした。

 

ナナシはいつもヘラヘラしてるお調子者で、

どちらかといえば人気者タイプの男だった。

 

いるかいないかわからないような

陰の薄い僕と、

 

何故あんなにウマがあったのかは、

今となってはわからないが、

 

とにかく僕らは、

なんとなく仲がよかった。

 

なので自由研究も、

自然と二人の共同研究の形になった。

 

また、心霊現象を調べようと持ち掛けたのは、

他ならぬナナシだった。

 

「夏だし、いいじゃん。な?な?」

 

しつこいくらいに話を持ち掛けるナナシに、

若干不気味さを感じながらも、

 

断る理由は無かったし、

僕はあっさりOKした。

 

そのとき僕は、ナナシはそんなに

オカルト好きだったのか、

そりゃ意外な事実だな、なんて、

くだらないことを考えていた。

 

「どこ行く?伊勢神トンネルとか?」

 

僕は自分でも知っている心霊スポットを、

口にした。

 

しかしナナシは首を横に振った。

 

「あんな痛いトコ、俺はムリ」

 

そのナナシの言葉の意味は、

僕は今も理解が出来ないままでいる。

 

何故『怖い』ではなく『痛い』なのか、

今となっては確かめようがない。

 

だが、ナナシは確かにそう言った。

 

話を戻すが、ナナシは、

僕が何個か挙げた心霊スポットは、

全て事々く却下した。

 

意見を切り捨てられた僕は、

いい加減少しムッとしてきたが、

ちょうどそのときナナシが言った。

 

「大門通の裏手にアパートがあるだろ。

あそこに行こう」

 

そのアパートの存在は僕も知っていた。

 

もっとも、心霊スポットだとか

オカルトな意味じゃない。

 

天空の城ラピュタとかに出てくるような、

蔦や葉っぱに巻かれたアパートで、

 

特に不気味なアパートってわけではないが、

入居者はおらず、

 

なのに取り壊されることもなく

数年・・・下手したら数十年、

そこに在り続けているアパートだ。

 

「あんなとこ行っても何もねーじゃん。

幽霊がいるワケじゃなし」

 

「いいから。あそこにしよう」

 

ナナシは渋る僕を強引に説き伏せ、

結局、翌日の終業式の後に、

そのアパートに向かうことになった。

 

時刻は午後4時36分。

僕らはアパートの前に居た。

 

終業式を終え、昼飯を食べてから、

しばらく僕らは僕の部屋で、

ゲームなんかをしたりした。

 

何故すぐにアパートに向かわなかったのか。

向かわないことを疑問にも思わなかったのか。

 

あの時の僕にはわからなかったし、

今の僕にもわからない。

 

ただ、すぐあのアパートに

向かわなかったことを、

僕は未だに後悔している。

 

否、あのアパートに行ってしまったことを、

後悔してるのかもしれない。

 

とにかく、しばらく遊んだ後、

唐突にナナシが「さ、そろそろかな」と言い、

 

僕はナナシに手を引かれて、

あのアパートに向かった。

 

その時のナナシの横顔が、

なんだか嬉々としていたような、

逆に悲しげなような、

 

なんとも言えない表情だったことを、

僕は忘れないだろう。

 

そして、僕らはアパートに着いた。

 

ナナシはひと呼吸置くと、

「終わった、な」と言った。

 

その言葉の意味がよくわからなかった僕は、

ナナシに聞き返したが、

ナナシは無言のまま僕の手を引いた。

 

いつものナナシじゃない。

お調子者のナナシじゃない。

 

そんな不安が胸元にチラついたが、

ナナシは構うことなくアパートの階段を上る。

 

そして、『302』とプレートの付いた

部屋の前に立った。

 

異様な空気が僕の背中を掠めた。

 

「ナナシ・・・?」

 

ナナシは答えないで、

ドアの前にあった枯れた植木鉢から

鍵を取り出し、ドアを開けた。

 

(続く)ナナシ 2/2へ

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