手 1/2

学生時代、まだ桜も咲かない3月のその日。

 

僕はクラスメイトのアキヤマさんという女の子と、

同じくクラスメイトのナナシの家に向かっていた。

 

ナナシには不思議な力があるのかないのか、

とにかく一緒にいると、

奇怪な目に遭遇することがあった。

 

そのナナシがその日、学校を休んだ。

 

普段はお調子者でクラスの中心にいるナナシが、

学校を休むのはすごく珍しいことで、

 

心配になった僕は放課後、

見舞いに行くことにした。

 

そこに何故か「私も行く」と、

アキヤマさんも便乗したわけだ。

 

とにかく僕ら二人は連れだって、

ナナシの家に向かった。

 

ナナシの家は、

学校から程遠くない場所にあった。

 

僕はナナシと親しくなって1年くらい経つが、

たまたま通りかかって「ここが俺ん家」と

紹介されることはあっても、

 

自宅に招かれたことはなかったため、

少しワクワクしていた。

 

ナナシの家は、今時珍しい日本家屋で、

玄関の門柱には苗字が彫り込まれていた。

 

「・・・ヤバイ家」

 

アキヤマさんが呟く。

 

僕はこのとき、確かに

ヤバイくらいでかい家だな、

なんて思っていたが、

 

今にして思えば、

アキヤマさんが言っていたことは、

全く違う意味を持っていたのだと思う。

 

それは今となっては言える話で、

あのとき僕がこの言葉の意味に

気付いていれば、

 

僕らとナナシには、

別の未来があったかもしれないと

悔やまれるが、

それは本当に今更なので割愛する。

 

呼金を鳴らし「すみませーん」と声をかけた。

 

しばらく無音が続いたが、

1,2分後に扉が開き、

背の高い女の人が出て来た。

 

僕とアキヤマさんは、

自分たちがナナシのクラスメイトであること、

ナナシの見舞いに来たことを伝えた。

 

女の人は「ありがとう」と笑うと、

ナナシの部屋に案内してくれた。

 

部屋に入ると、布団に包まって

漫画を読んでいるナナシがいた。

 

僕らに気付いたナナシが、

ヘラヘラ笑ってヒラヒラと手を振る。

 

案外元気そうな姿に、僕は安堵した。

 

「なんだよお前、元気なんじゃないか」

 

僕は笑ってナナシに話かけた。

 

アキヤマさんは黙って鞄を置くと、

部屋を見回した。

 

「なんでアキヤマがいんの」

 

ナナシが小声で僕に尋ねた。

 

僕もなんとも答えられず「まあまあ」と、

わけのわからない返答をした。

 

ナナシの声は、

小声だからというのもあるだろうが、

かなり掠れていて痛々しい程だった。

 

見た目と違い、かなり酷いのかと

心配になったその時、

 

「ナナシ。あれ、何」

 

アキヤマさんが、口を開いた。

 

アキヤマさんが指差した場所には、

コルクボードがあった。

 

眼鏡をかけて改めて見ると、

何枚もの写真と、何枚かの手紙や

プリントが貼られている。

 

中には、僕らが授業中に回していた

手紙もあった。

 

「なんだよ、わざわざ飾ってんのかよ」

 

ナナシが手紙をとっといてくれたことが、

なんだか無性に嬉しかった僕は、

ナナシを肘でつついた。

 

しかしアキヤマさんはニコリともせず、

「そうじゃなくて、その真ん中」と続けた。

 

僕は目線を真ん中に向けた。 

するとそこには、異様な写真があった。

 

「・・・え」

 

それは、どう見ても心霊写真です、

といった感じの写真だった。

 

写っていたのは、

ナナシと先程の背の高い女の人で、

見事な夕日を背景にしている。

 

そこまでは、なんらおかしくなかった。

 

おかしいのは、ナナシの一部。

否、ナナシを囲むもの、というべきか。

 

女の人にもたれ掛かるようにした

ナナシの顔の両端に、

白いものが写っている。

 

それは手のような形をした、

白いモヤだった。

 

「ナナシ、これ・・・」

 

「ああ、それか」

 

少しガタついてる僕に、

ナナシは漫画を置いて向き直った。

 

その表情は哀しそうで、

そしてどこか嬉しそうでもあった。

 

「それは、母さんと撮った

最後の写真なんだ」

 

ナナシはそう言って語り始めた。

 

「俺の隣が母さん。

2年前に、死んだ」

 

ナナシは少し俯いて言った。

 

「その写真撮った次の日に、

その写真撮った屋上から飛び降りた」

 

淡々とした言い方だったが、

それはナナシが背負ってきた悲痛が

全て凝縮したような、

切ない響きを持っていた。

 

見事な夕焼けを背にして笑う親子。

 

まさかそれが、

翌日には哀しい別れ方を迎えるなんて、

哀し過ぎる。

 

(続く)手 2/2へ

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