手 2/2

「その写真、母さんの誕生日に

棚整理してたら見つけてさ。半年くらい前。

 

2年前に現像して見たときは、

たしかに何も写ってなかったんだけど、

そんとき改めて見たら、そのモヤが写ってて」

 

僕は黙って聞いていた。

 

アキヤマさんも、

じっと写真を見つめて黙ってた。

 

僕は今更、

ならばさっき会った女の人は何だとか、

わかりきった追求をする気はなかった。

 

ナナシといたら怖い体験をするってのは、

それこそ今更だったし。

 

きっと、死んだ後もナナシのお母さんは、

ナナシが心配でこの家にいるんだろう。

 

遺して来たナナシが心配なんだろう。 

そう思った。

 

「そのモヤ、手の形してるだろ?

俺も最初は怖かったけど、見てるうちに、

きっと母さんが俺を守ってくれてんだ、

って思ってさ。

 

その手が、きっと俺を守ってくれてるんだ、

って思って」

 

ナナシは、そう言って笑った。

 

「だから、飾っちゃってるわけ。

マザコンぽくてアレだけどな」

 

ナナシは掠れ声でそう言うと、

いつもより少し照れたように

ヘラッと笑った。

 

僕はうっかり泣きそうになるのを

グッと理性で押さえ、

 

「このロマンチストが」なんて、

馬鹿馬鹿しいツッコミを肘で入れた。

 

ナナシとは怖い体験も何度かしたけど、

この話を聞いて、やっぱり僕は

ナナシを好きだと思った。

 

僕らを見て『ありがとう』と笑った、

ナナシのお母さんの顔を思い出す。

 

僕はナナシとずっと友達でいよう、

あのお母さんの分もナナシの傍にいよう、

と心底思った。

 

そのとき、「元気そうで何よりだわ。

明日は学校で会いたいわね」と、

アキヤマさんが唐突に言った。

 

一瞬にして、

先刻までの感動ムードが吹っ飛ぶ。

 

アキヤマさんはそんな空気変化を

無視し鞄を抱えて、「お大事に」

と一言掛けると、部屋を出た。

 

僕は一瞬呆気に取られたが、我に帰り、

慌ててアキヤマさんを追い掛けた。

 

「また明日な!!!」

 

ナナシに声を掛けると、

ナナシはいつものヘラヘラした笑顔で

手を振った。

 

それを見届けてから、

僕はアキヤマさんを追い掛けて、

広い廊下を走った。

 

あの女の人は、もういなかった。

 

僕がナナシの家を出たとき、

アキヤマさんはすでに数十メートル先を

歩いていた。

 

僕は必死でアキヤマさんを追い掛け、

並んだところでその肩を掴んだ。

 

「アキヤマさん!!」

 

「・・・なに」

 

アキヤマさんは振り返る。

 

その顔に表情はなく、

異様なくらいの冷たさを感じた。

 

「なんで、あんな言い方したんだよ。

ナナシが可哀相じゃん、お母さんが・・・」

 

そこまで言って、僕は何も言えなくなった。

 

アキヤマさんが、嫌悪と怯えを

入り交じらせたような形相で、

僕を睨んでいたからだ。

 

「・・・アンタ、本当にあれが

『守り手』だなんて思ってんの?」

 

アキヤマさんが強い口調で言った。

 

その真っ直ぐに向けられる視線は、

信じられないとでも言うように、

僕を刺していた。

 

「だって・・・それしか」

 

「本当にそう思ってんならシアワセね」

 

アキヤマさんは、心底馬鹿にしたように

言い放った。

 

「アタシにはあの手が、

ナナシの首を絞めようとしている

ようにしか見えなかったわ」

 

そう言うと、

アキヤマさんは足を早め

帰って行った。

 

曲がり角を曲がって見えなくなる

アキヤマさんを呆然と見送りながら、

僕はあの写真を思い出していた。

 

夕焼けを背にした親子。

その翌日に飛び降りて死んだ母。

息子の首元にかかる手型のモヤ。

 

そして、良好そうな体調のわりに、

酷く掠れたナナシの声。

 

もし仮にアキヤマさんの台詞が真実なら、

僕らが見たあの人は、

ナナシをどうするつもりだろう?

 

耐え難い悪寒と戦慄を感じ、

僕は走った。

 

嫌な予感が現実にならないのを祈りながら、

ナナシの家が見えなくなるまで走った。

 

翌日、ナナシはいつもどおり

学校に来ていたが、

声はさらに掠れていた。

 

このときすでに、

カウントダウンは始まっていた・・・

のかもしれないが、

 

やっぱりそれは、今更の話。

 

(終)

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