ぐるぐる 1/4

僕の友人に、

 

オカルティストで霊感もそこそこ強い

Kという奴が居る。

 

ある日そのKに、

 

「今まで生きてて一番

怖かった体験は何か?」

 

と訊いてみた。

 

すると、彼は視線を上の方に据え

しばらく考えた後、

 

K「んー・・・そら、ぐるぐるの時だな」

 

と言った。

 

「ぐるぐる?」

 

K「そー。ぐるぐる」

 

<以下はKから聞いた話>

 

十年くらい前の話だ。

 

俺が小学五年生の時、

 

当時通ってた小学校内で

妙な噂が流れていた。

 

噂は学校からそう遠くない場所にある、

南中山という山に関してだった。

 

『あそこの山には、ぐるぐる様が出るぞ』

 

話が広まり出したのは

夏休みが明けた九月のことで、

 

噂は火災時の煙の様に、

またたく間に校内中に広がった。

 

何でも六年生達が夏休み中に

南中山で肝試しを行い、

 

そこで何かしら見た、

という話が出火元らしい。

 

多くの噂話や都市伝説が

そうであるように、

 

ぐるぐる様に関しても、

 

次々にボクも見たアタシも見たと

目撃者は増え、

 

ぐるぐる様を見た者は

呪い殺されるだの、

 

日にちが経つごとに

話は膨らんでいった。

 

身長は子供大から数メートルまで

ばらつきがあったし、

 

男か女かも

証言者によって分かれた。

 

ただ、

 

そんなバラバラな話の中にも

共通点があった。

 

それは、目でも腕でも頭でも、

 

ぐるぐる様は身体のどこかしらが

回転しているという点だ。

 

名前が名前だから、

そこは外せないんだろう。

 

あと、ぐるぐる様は黒いらしい。

 

そんなこんなで

盛り上がる周りをよそに、

 

俺は噂とは無縁に

至って平凡に過ごしていた。

 

当時の俺は、

 

オカルトにはあまり関心の無い

普通の子供だったのだ。

 

まあ、まだ十かそこらだ。

目覚めるには幾分早い。

 

怖がりだったし。

 

代わりに四つ歳上の姉貴が

目覚めてた。

 

「あ、Kー。

 

晩御飯終わったら、

南中山行くからね。

 

準備しとくんよ」

 

朝から雲が無くて、

 

朝夕晩通してこれでもかと

暑い一日だった。

 

時刻は午後七時前。

 

夕飯を前に、

 

姉貴は風呂に行こうとしていた

俺を捕まえてそう言った。

 

K「南中山?・・・ぐるぐる様?」

 

というか、それしかない。

 

「そう。ぐるぐる。

面白そうじゃん。ぐるぐる」

 

姉貴はトンボを捕まえるときのように、

俺の目の前で人差し指を回転させる。

 

しかし、何がそんなに面白そうなのか、

当時の俺にはいまいちピンとこない。

 

「当然、父さん母さんには内緒にね。

決行は夜の十一時。

 

それまでにちゃんと

トイレは済ませときなさいよ」

 

関係ない話だが、

 

俺は小学校低学年の時に観た、

『学校の階段』という

 

子供向けのホラー映画で

やらかしたことがある。

 

先程の姉貴の発言は、

完全にそれを馬鹿にしたものだ。

 

実際のところ行きたくなかった。

 

しかし、

 

ここで『行きたくない』と言ってしまえば、

更に馬鹿にされた上に、

 

これ以降、俺の呼び名が『根性無し』に

なってしまうことは確実だった。

 

弟に拒否権は無かった。

 

結局、しぶしぶながら俺は

「・・・おーけー」と答える。

 

姉貴は、「それでこそ私の弟だ」

と満足そうに頷いた。

 

今夜、ぐるぐる様に会いに行く。

 

おかげで、風呂で頭を洗う時に

目を瞑れなかった。

 

目を瞑ると、

 

イメージされたぐるぐる様の映像が

頭の中でぐるぐる回るのだ。

 

俺は夕食の後、念入りに

下腹部内のタンクを空にした。

 

夜中の十一時。

 

俺と姉貴は子供部屋のある二階の

窓から外に抜け出した。

 

母と、一緒に住んでる祖母は

もう寝ているようだったが、

 

父が未だ居間でテレビを見ていた。

 

身を屈めて動く。

 

玄関近くの車庫から音を立てない様に

自転車を取り出す時が、一番緊張した。

 

自転車は一台。

 

警察等に気をつけながら

俺が前でペダルを漕いで、

 

姉貴は後ろの荷台に座っていた。

 

夜中だが外は暑かった。

 

俺も姉貴も半袖半パンだったが、

 

後ろで姉貴が鼻歌交じりに

風を受けているのに対して、

 

俺は風は受けているが、

 

同時に二人分の重量を乗せた

自転車を漕いでいるのだ。

 

K「重ぇー!あとアッつい。

疲れた。しんどい」

 

「はいはい黙って漕ぐ漕ぐ。

あと少しだから」

 

姉貴の口調は、

心底楽しそうだった。

 

南中山の入り口は、

 

家から自転車を漕いで

二十分程の場所にある。

 

街の中にある小さな山で、

 

子供の足でも二十分も上れば

頂上に着ける。

 

「・・・実はね。

 

お母さんが子供の頃にも一度、

学校内で噂になったんだって。

 

南中山にはぐるぐるがでるぞー、

ってさ」

 

もうすぐ山に着く頃、

姉貴が後ろからそう言った。

 

街中を流れる川に沿ったゆるい坂道に

そろそろ息が切れていた俺は、

 

返事をしなかった。

 

が、姉貴は構わず続ける。

 

(続く)ぐるぐる 2/4へ

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