ぐるぐる 3/4

「・・・今日はお留守かな?」

 

と、辺りを見回しながら

姉貴が呟く。

 

K「寝てるんじゃね?」

 

と言いながら、

俺は若干ほっとしていた。

 

その時、

 

ふと姉貴の照らすライトの光が

白っぽい何かを浮かび上がらせた。

 

危うく飛び上がりそうになるが、

それは石だった。

 

何枚かの平たい石が縦に積まれ、

小さな塔の様になっている。

 

高さは俺の背の半分程だった。

 

K「・・・あれ何?」

 

「たぶん、お墓。

 

名前が彫ってあるわけじゃ

ないだろうけどさ。

 

・・・供養塔だね」

 

訊いといて何だが、

 

姉貴からしっかりした返答が

あったことに俺は驚く。

 

K「誰の墓?」

 

「ん?いっぱい」

 

姉貴はこともなげに言ったのだが、

俺にはその意味が良く分からなかった。

 

「だから、個人のお墓じゃなくて。

 

そーねぇ・・・。

ここの、南中山にはね。

 

昔、戦争中に死んだ、

 

身元の分からない人たちの遺体が

埋められてるから。

 

いっぱい。

 

言うたらさ、

この山自体がお墓なんよ」

 

思わず足元を見る。

 

だとしたら俺たちは今、

堂々と墓を踏んづけていることになる。

 

「で。私は、それを確かめに

来たわけなんだけど・・・」

 

K「あえ、何が?」

 

「んーん。何でもない。

 

なんか、今日は

出て来ないみたいだし。

 

ぐるぐる。

 

だったら、ここに居ても

意味は無いし」

 

帰ろうか、

と姉貴は言う。

 

俺は喜んで賛成した。

 

朝までここに張り込む

だなんて言われたら、

 

どうしようかと思っていたのだ。

 

「でも、元来た道を戻るのは

つまらないから、

 

このまままっすぐ、

山を一周しようか」

 

姉貴の提案に、

 

帰れるなら何でも良い俺は

素直に首を縦に振る。

 

そうして、また姉貴が前を行く形で

俺たちは歩き出した。

 

K「なぁ、帰りは姉ちゃんが

自転車漕ぐんだろ?」

 

「ぐるぐる見れなかったから、

やっぱりあんた漕いで」

 

K「おい何だよそれー。

・・・、・・・え、マジで?」

 

それは積み上げられた石の前を

通った時だった。

 

ふと視線の端に

何かが居た気がした。

 

帰れると思って

すっかり気が抜けていた俺は、

 

疑問を抱く前に

そちらの方を向いてしまった。

 

石の横に何かが居た。

 

最初は猪か何か、

獣かと思った。

 

少量の水で溶いた墨を

ぶちまけたかのような暗闇の中で、

 

そいつは確かにこちらを見ていた。

 

身体が固まる。

 

しかし無意識に前に居る姉貴の

服を引っ張っていたらしく、

 

姉貴が振り向く。

 

何か俺に文句を言おうと

していた様だが、

 

それが口から出て来る前に

姉貴も俺が見ている何かに気がついた。

 

ライトの光がそいつを照らす。

ぐるぐる様。

 

俺の聞いた噂では、

 

身体のどこかが回転しているから、

ぐるぐる様だと言っていた。

 

だが違った。

 

『身体のどこか』

では無かった。

 

全部だ。

 

例えば、こちらを向いてまっすぐ立った

人間を一本の棒と見る。

 

その棒の腰辺りを正面を向かせたまま、

向かって左に曲げる。

 

胸の辺りでもう一度

同じ方向に曲げる。

 

首も曲げる。

 

まるでカタツムリの殻の様に、

 

コーヒーに垂らしたクリームが

渦を巻く様に、

 

ぜんまいの様に、

 

そいつの身体は頭を始点にして

渦を巻いていた。

 

だから、ぐるぐる様なんだ。

 

頭と思しきモノが

膝の横にあった。

 

渦の外側はあまりに急激な角度で

曲げられているため、

 

所々黒い皮膚が裂けて、

骨やら肉やら中身が飛び出している。

 

更に、ぐるぐる様は

片方の腕が無かった。

 

残った手は、

 

バランスの悪い身体を支えるため

地面についている。

 

身体のほぼ全身が黒かった。

 

特に左半身が

炭の様になっていた。

 

目も開いているのは片目だけ。

 

異様だった。

冗談だろ、ってくらい。

 

その姿は俺の想像のはるか上まで

ぶっ飛んでいたため、

 

悲鳴も出なかった。

 

俺は口を半開きにぼんやりと、

 

ただ目の前の存在を

見つめるだけだった。

 

「・・・ちょっと、ライト持ってて」

 

姉貴の言葉で、

 

俺の中に放浪していた自我が

一部戻ってきた。

 

姉貴はそんな俺の手に

ライトを握らせると、

 

ぐるぐる様の方へ

ゆっくりと歩み寄った。

 

『駄目だ』とも

『行くな』とも言えず、

 

俺は何をして良いか

分からないまま、

 

茫然と姉貴とぐるぐる様に

光を向けていた。

 

姉貴はぐるぐる様の

すぐ傍で止まった。

 

しゃがむ。

 

何をしているのかは分からない。

何もしてない様でもあった。

 

一度俯いて、

それから立ち上がった。

 

「ライト消して」

 

と、俺の方を向かずに

姉貴は言った。

 

まだ茫然としていた俺は、

 

二度同じことを言われてようやく

反射的にライトのスイッチを切った。

 

暗闇。

 

数十秒か数分。

もしかしたら数秒かもしれなかった。

 

ただ、何も見えない中で、

俺は段々と自分を取り戻していった。

 

膝ががくがくと震えだす

恐怖も一緒に。

 

(続く)ぐるぐる 4/4へ

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