ぐるぐる 4/4

「もういーよ。つけても」

 

姉貴の声がして、

俺は急いでライトをつけた。

 

光の先には姉貴の姿だけがあった。

ぐるぐる様は居ない。

 

「大丈夫、どっか行ったから」

 

そうして姉貴は、

 

未だ恐怖の余韻に震える

俺の方を見て大いに笑った。

 

「なんか、生まれたての小鹿みたい」

 

馬鹿にされてもしょうがない。

 

後で思ったことだが、

 

ここに来る前にトイレに行っといて

ホントに良かった。

 

俺の震えは、

 

姉貴に頭を叩かれないと

歩き出せない程だった。

 

自転車を置いた場所に戻る前に、

 

姉貴は積んであった石に向かって

手を合わせた。

 

どうしてだか分からなかったが、

急いで俺も倣う。

 

『どうか祟らないでください』

とお願いした。

 

それから二人で山を降りた。

 

「帰りは私が前」と言う姉を

強引に後ろに乗せて、

 

俺は若干飛ばしつつ

深夜の家路を走った。

 

身体を動かしていた方が

余計なことは考えずに済むだろう

 

って寸法だ。

 

と言っても、

それは無駄な抵抗に近かったが。

 

K「・・・あん時さ、ぐるぐる様と

何してたんだよ?」

 

帰り道の途中、

 

まだ怖かったが、

俺は思い切って訊いてみた。

 

後ろで鼻歌を歌っていた姉貴は、

そのまま歌う様に答えた。

 

「見てただけ」

 

K「・・・どこ見てたんだよ?」

 

「うーん・・・。

足の甲にあったVの字とか。

 

あ、ローマ字の、大文字の方ね。

おかげで、はっきりした」

 

K「は、Vの字?」

 

「下駄か何かの、

履き物の紐の跡。

 

下駄なら鼻緒って言うんだっけ?

 

そこだけ、

うっすらと白かったから」

 

俺は馬鹿だったから、

 

姉貴が何を言いたいのか

分からなかった。

 

K「それが何?」

 

「火傷を免れた跡ってこと。

 

しかも、あの子の火傷は、

左側が特にひどかった。

 

たぶん、爆弾じゃないかな」

 

やっと呑み込む。

 

爆発に巻き込まれたから、

 

あんな身体になり、

火傷も負った。

 

しかし爆弾と言われても、

 

現在を生きる俺には

現実味が無かった。

 

「地面に落ちる前に

塀か何かに当たって、

 

ちょうど真横の左側、

頭より上で爆発した。

 

・・・証拠は何も無いけどね。

そう的外れでも無いと思う」

 

K「爆弾って・・・、戦争?」

 

「そうだよ。

 

だから、おばあちゃんの頃から

この話が伝わってる。

 

南中山に埋められているのは、

 

昭和二十年頃に起きた

大空襲の被害者って話だから。

 

身元の分からない人も沢山いた。

そのうちの誰かじゃないかな」

 

昭和二十年。

何年前だろう。

 

とりあえず、

 

俺が生まれていないことだけは

はっきりしている。

 

K「・・・姉ちゃん、さっき、

『あの子』って言った?」

 

すると姉貴は、それを言うのを

ほんの少しためらった。

 

「・・・うん。子供だった。

あんたと同い年くらいかな」

 

俺と同じくらい。

 

ぐるぐる様は戦争で死んだ

子供だった。

 

それを思うと少しだけ、

 

ぐるぐる様に対して今まで抱いていた

恐怖の隙間を通って、

 

しんみりとした何かが

染み出してきた。

 

K「どうして、今も出て来てるんだろ・・・」

 

呟く。

 

「空襲があったのは、

夏らしいからね。

 

忘れられないために、

出て来るんじゃないかな。

 

勝手な推測だけどさ」

 

それから少しの間、

俺と姉貴は黙ったままだった。

 

夜空見上げ、

俺はふと思う。

 

明日学校に行ったら、

この噂を広めてやろう。

 

ぐるぐる様はただの妖怪とか

幽霊じゃないんだぞ。

 

戦争で死んだ子供なんだ。

 

忘れられないために、

出て来ているんだ。

 

「平和にぃ、感謝だぁーっ!」

 

突然、後ろの姉貴が

大声で叫ぶ。

 

危うく、こけそうになった。

 

振り向くと姉貴は「うははは」と

可笑しげに笑っていた。

 

<Kから聞いた話は以上>

 

K「・・・まあ、

十歳そこそこの頃に、

 

姉貴に無理やり連れ出されて、

いきなりアレだからなあ。

 

ありゃ怖かった」

 

時間はそれから約十年後。

 

ここは大学近くのKが住む

学生寮の一室。

 

「って言うか。・・・Kって、

姉さん居たんだねぇ」

 

K「お、そういや言ってなかったっけか。

何なら、今度紹介するぞ?

 

最近近くに男っ気無くて暇だとか

言ってたからよ」

 

「・・・いや、遠慮しとくよ。

何かスゴイ人の様だし」

 

さっきの話で、

 

今現在のKがこうもオカルト好きな理由の

一端を垣間見た気がした。

 

類は友を呼ぶ、ならぬ、

類は友を造る、か。

 

「そういえば、そのぐるぐる様ってさ。

今も居るんかな?」

 

K「ん。そらまた何で?」

 

「あ、いや。Kが一番怖いって

言うくらいだからさ。

 

僕も一度くらい

その姿を拝んでみたいなー、

 

なんて思ったりね」

 

K「あ?あ、いやー違うぞ。

そこじゃねぇ。

 

確かに怖かったけどさ。

一番って程でもねえよ。

 

・・・ワリーワリー。

重要な部分が抜けてたな」

 

僕は首を傾げる。

一体どういうことだろう。

 

K「今までで一番怖かったのはさ。

 

・・・あの後、家に帰った後にな、

抜け出したことが親にばれたんだよ。

 

姉貴が夜に叫ぶもんだから、

近所の人に聞かれちまって。

 

で、家に帰ってから、

猛烈に怒られるわけだ」

 

「・・・」

 

K「そん時のオカンが、

一番、怖かったな」

 

そう言って、

Kは「うははは」と笑った。

 

(終)

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