河童井戸 4/4

S「・・・河童というものが、昔、

貧困ゆえに間引きされた子供の暗喩だ、

という話は聞いたことがあるか?」

 

Sは一体何を言っているのだろうか。

 

S「そうして間引かれた子供のことを、

水子と言う」

 

ぞくり、と生ぬるい風で

体中を撫でまわされる様な感覚。

 

視線が井戸の中へと向かう。

 

今にもあの中から何かが

這い上がって来ているのではないか。

 

そんな錯覚に陥る。

 

S「お前らには分からないかもしれんが、

ここに子供がすがりついている」

 

Sが手にした地蔵の足の部分。

 

確かに小さく盛り上がってはいるが、

あれが子どもなのだろうか。

 

S「こいつは水子地蔵だ。

水子を供養するための地蔵なんだよ。

それが井戸の中にあったんだ。

・・・分かるか?」

 

井戸から這い上がって来る。

 

何かが、何が?

 

水子、間引かれた子どもたち。

 

たち?

どうしてそう思うんだろう僕は。

 

S「こいつは井戸じゃない。墓だ。

たぶん、一人じゃないだろう。

共同墓地か。

 

河童の話でもあったな、

食うためにってさ。

 

直接じゃなくて、

自分たちが食っていくために、

って意味だろうな」

 

そして、Sはバケツを持って

Kに差し出す。

 

S「飲むか?ある意味

長寿の水かもしれんぞ。

 

何てたって水子だ。

 

あと何十年も生きるはずだった

子らのダシが、

 

たっぷり出てるんだからな」

 

Kは半笑いで、力なく首を振った。

 

K「飲むわけねーだろ」

 

S「・・・ま、だよな。

お前は?飲むか?」

 

そう言ってSは僕にも

バケツを差し出してくる。

 

「無理無理無理無理無理ムリむり」

 

S「だよな」

 

そうしてSはくっくと笑うと、

バケツの中の水を井戸の中に戻した。

 

それは試合終了の合図でもあった。

 

蓋を閉め、首の取れた

水子地蔵をその上に置き、

 

僕ら三人は手を合わせた。

 

そしてSの車で村を出る時、

僕は初めて気づいた。

 

村の入り口近くにある御堂、

そこに並んでいた沢山のお地蔵さん。

 

通り過ぎる際にSがぽつりと言った。

 

S「あれも、全部、水子地蔵だぜ」

 

その瞬間、粟立った。

怖い。ああ、怖い。

 

ユウレイよりも妖怪よりも、

暗闇よりも、何よりも。

 

ヒトは、怖いのだ。

 

しんと静まり返った車内。

響くのはSのあくびの声だけ。

 

Kまでもが何も喋らない。

 

S「ワリー。・・・ジョークだ」

 

あくびの後、

Sがぽつりと言った。

 

「・・・」

 

聞こえていたけど、

僕は反応しなかった。

 

S「ジョークだよ!」

 

さっきより強めに言われて、

僕はようやく反応する。

 

「・・・、・・・・・・は?」

 

S「全部、ジョーク。

冗談。ジョーダン。

口から出まかせ」

 

意味が分からない。

僕はSを見る。

 

Sは僕にちらと視線をよこし、

 

「くっく」と、さも

おかしげに笑っている。

 

S「すまん。あんな簡単に

信じるとは思ってなかったんだ。

 

井戸からバケツ引っ張り上げた時に、

丁度いい形の石が出てきたもんで、

つい調子に乗ってな。

 

そしたら引き際が分かんなくなって、

ワリー」

 

「え・・・、え、でっ、だ」

 

そんな馬鹿な。

 

「じょ、ジョークって。・・・

河童とか、水子の話は!?」

 

S「河童が、間引きされた

子どもの暗喩だってのはある話だ。

 

でもな、考えてみろ。

 

村人が本当にそんなことを

したのなら何故、

 

自分たちの罪、

いや恥だな、

 

恥をわざわざを暗喩して

人に伝えようとする?」

 

「だ、誰でも分かるわけじゃあないし、

後悔の気持ちがあったとか・・・」

 

S「俺には分かったし、

あの河童の話で、私たちは後悔してます

と言われてもな・・・。

 

まあ、そんな暗喩があることを

当時の村人が知らず、

 

本当に偶然語り継がれた話

ってことも考えられるが。

 

そうだとしても、だ。

 

あの井戸に、

子どもは埋まっていない」

 

「な、何で分かるのさ!」

 

S「簡単だ。生活に困るからだ」

 

「は・・・?」

 

S「山奥の農村で、

井戸に頼るというところは少ない。

 

他に色々水源はあるからな。

 

それでも、あんなに深い井戸を

掘らなくちゃいけなかったってことは、

 

本当にあの井戸が必要だったからだ。

 

そんな井戸に、

ガキを放り込む馬鹿は居ない。

 

捨てる場所なら他に沢山ある」

 

「で、で、でも、あの水子地蔵は・・・」

 

S「ありゃ嘘だ。あれはただの石。

形も全然違うしな。

 

村の入り口にあったのも、

ありゃただの地蔵だ」

 

「・・・井戸の水が」

 

S「一度枯れてまた湧き出る

なんてことは、ある」

 

「・・・」

 

僕はKに助けを求めようと、

後部座席を見る。

 

Kは寝ていた。

 

どうも静かすぎると思ったんだ。

くそう、使えねえ奴め。

 

S「Kには黙っとけ。

もう少し静かにさせとこう」

 

とSが言う。

 

僕は今一度、放心状態に陥る。

 

騙された。

騙されたのだ。

 

これ以上ないくらい綺麗に、

見事に。

 

けれども、僕は何だか

地の底から救われた気分だった。

 

もちろん、この野郎という気持ちはある。

むくむく沸いてきている。

 

でもそれ以上に心の底から思う。

冗談で良かった。

 

Sが冗談と言うのだから、

きっとそうなのだ。

 

僕はそう思うことにした。

 

だから僕は、

 

井戸の蓋が、

どうして重い石造りだったのかも

 

気にしないことにした。

 

だから僕は、

 

Sの表情が、

普段よりも優しげなことについて

 

気にしないことにした。

 

だから僕は、

 

ふと思い出した、あのバケツを

差し出された時に見た、

 

水と一緒に入っていた

小さな歯のようなものについて、

 

Sに訊くのは止めておくことにした。

 

全部、ジョークだから。

 

(終)

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