河童井戸 3/4

K「・・・さてさて!果たして

水はあるのでしょうか!?」

 

場の雰囲気を盛り上げようとしてか、

井戸の傍でKがわざと大きな声を出す。

 

僕は少し笑う。

ちょっとだけ和んだ。

 

K「ではではー。

ここに石コロがひとつございまして、

 

今から投げ入れて確かめて

みま、しょう、や!」

 

最後の『や!』で、

Kは井戸の中に石を投げ入れた。

 

とぷん。

 

「・・・え?」

 

反射的に声をあげてしまっていた。

 

音がした。

とぷん。

 

それは井戸の底にあるものからの

返事だった。

 

今、井戸の中には水がある。

昼間は確かに無かった。

 

水があるのだ。

 

K「・・・うわ、マジかよ。すげえ!」

 

僕は固まっていた。

 

石を投げ込んだ本人の

Kすら驚いてる。

 

僕ら三人の中で一番

冷静なはずのSでは、

 

この結果を受け俯き、

何やらぶつぶつと呟き始めた。

 

Sが怖い。

 

S「潮汐は・・・、関係無いな。

いくら新月つっても、

 

地下水面押し上げるほどの

影響は無いし、

 

この辺りには海も湖も無い。

 

地球の自転が加速したか?

・・・はっ、そんな馬鹿な。

 

しかしだ、となれば・・・、」

 

僕はSを見やった。

Sが顔を上げる。

 

S「最初から、水は、あった」

 

ぶつ切りにそういうと、

 

Sは地面に落ちていた石を

方手で二つ拾い、

 

その手を井戸の上にかざした。

 

何をする気か疑問が沸くよりも早く、

ひとつ石を落す。

 

ちゃぽん。

 

水に落ちる音。

 

Sはすぐに手の位置をずらし、

二つ目を落とした。

 

かつん。

 

これは違う。

違う音だ。

 

何だろう。

これはどういうことだ。

 

Sは何をした。

 

S「・・・おそらく石か何か、

硬いものが積りに積もって、

水面から顔を出してんだろ」

 

唖然としている僕に向かって

Sが言う。

 

S「昼間にKが石を投げた時は、

たまたまその硬いものの上に

落ちたってことだ。

 

深すぎて中は見えなかったしな。

 

先に、もう枯れてるって

情報があったもんだから、

一度で確認を止めた」

 

僕はもう何が何だか分からなくて、

頭に浮かぶのは、

 

Sはこんな状況でも馬鹿みたいに

冷静なのだなあ、

 

という感想くらいだった。

 

「はあー・・・、何と言うか。

よくまあそこまで考え抜けれるもんだねえ」

 

それは、本当に感心したからこその

言葉だった。

 

Kも同じ気持ちだったに違いない。

でもSは浮かない顔をしていた。

 

S「当たって欲しくなかった」

 

「は、え?何が?」

 

S「おい、K」

 

僕の質問には答えず、

SはKを呼ぶ。

 

S「お前、そのバッグの中に

色々入ってんだろ?

ロープとバケツ、無いか?」

 

K「ん、あ、あー、あるぜ。

つるべは無いって、

前もって聞いてたからよ。

え?出すのか?」

 

S「ああ」

 

Kはバッグの中から、

 

小さなプラスチック製のバケツと、

細いロープを取り出す。

 

Sはそれらを受け取り、

 

バケツの取っ手に

無言でロープを巻き付け、

 

ロープの端をしっかり握ると、

 

そのままバケツを井戸の中へと

放り込んだ。

 

バケツが水の上に落ちる音がする。

 

K「おいS、何だよ。さっきの

『当たって欲しくなかった』

っつーのは」

 

僕の代わりにKがもう一度

Sに尋ねる。

 

しかしSは答えてくれず、

 

手に持つロープを小刻みに

操っている。

 

バケツの中に

水をすくっているのだ。

 

そしたら急にSはロープをぐいと

大きく引っ張った。

 

その瞬間、

井戸の中から何か音がした。

 

まるで、積み木で作ったお城が

崩れるような音。

 

積み重なった何かが、

下から崩れていく時の音だった。

 

Sがゆっくりとロープを

手繰り寄せる。

 

S「・・・Kがさっきした河童の話。

あれが本当だとしたらな」

 

「え、え?」

 

唐突で身構えても無かったので、

僕は変な声を出していた。

 

そんなことはお構いなしに

Sは話を続ける。

 

S「あれは、河童が入ったせいで

井戸の水が枯れてしまった、

ってな話だ。

 

井戸が枯れたのを河童のせいにする。

それなら納得出来る」

 

僕はまだSが何を言おうと

しているのか分からない。

 

S「でも、実際に井戸はまだ使える。

水があって、こうして汲むことが

出来るんだからな。

 

飲み水に使用出来なくても、

畑にまく、洗濯、洗い物の水、

用途はいくらでもある。

 

この村の人間は、

わざわざ河童の話を創ってまで、

 

使えるはずの井戸を『枯れている』

ってことにしたかったんだ」

 

Sがロープを手繰る。

僕はその動きだけを目で追う。

 

S「水があっても、使えない。

この水は使えないんだ」

 

バケツが井戸の縁まで上がってきた。

Sがそれを掴み上げる。

 

黄色いバケツの中には透き通った水。

それともう一つ。

 

何だろう、細長い石?

 

S「・・・まさか、こんなものが

釣れるとはな」

 

Sの言葉には苦笑が混じっていた。

 

S「お前ら、これが何だか分かるか?」

 

分からない。

僕もKも首を横に振る。

 

Sがバケツの中から

それを取り出す。

 

やはり石だ。

 

人の形をしている様にも見える。

 

但し、頭、顔が無い。

まるでボーリングのピンだ。

 

Sは次いで自分のポケットに手を入れ、

何かを出した。

 

それも石だった。

丸い石。

 

Sは細長い石の上に、

丸い石をゆっくりと乗せた。 

 

ライトで照らすと、

丸い石には表情がある。

 

つまりは顔。

 

(続く)河童井戸 4/4へ

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