UFOと女の子(夏) 1/3

そろそろ二十世紀が終わろうかという

年の九月のことだった。

 

当時まだ十歳にもなっていなかった

僕はその夏、

 

一人の宇宙人に出会った。

 

僕が住んでいた街の外れには、

 

四階建てのそこそこ大きい

デパートがあって、

 

そこの屋上は、

 

小さな子供たちが遊べる

スペースになっていた。

 

百円玉を入れると動き出す

クマやパンダの乗り物や、

 

西洋のお城の形をした

巨大なジャングルジム、

 

クモの巣状に張られた

ネットの真ん中に、

 

トランポリンが付いている

遊具とか。

 

とにかく、子供心を

くすぐるような場所だった。

 

それらいくつかの遊具の中に、

 

銀色のUFOの形をした

遊具があった。

 

当時はそれがアダムスキー型

だということは知らなかった。

 

UFOの下部には

やじろべえの様に支柱があって、

 

子供が中に入って動き回ると、

 

その重心が移動した方に

ぐらりと傾くのだ。

 

地面からUFO本体までは、

大人の背丈ほどの高さがあった。

 

中に入るには、

 

等間隔で結び目のついている

縄ばしごを上らないといけないので、

 

本当に小さい子は上って来れない。

 

それでいて単調で

単純な仕掛けだったから、

 

他の遊具に比べると人気も無く、

中に人がいることは滅多に無かった。

 

けれど、僕はそんなUFOが

大のお気に入りだった。

 

当時、たまに母の買い物に

付いて行くことがあって、

 

その時は100円と

消費税分だけ貰って、

 

デパート内の痩せた店員さんが居る

駄菓子屋で菓子を買い、

 

母が下で買い物をしている間、

 

僕はUFOの中で

その菓子を食べながら、

 

一人宇宙人気分を

味わったりしていた。

 

その日は小学校が昼に終わって、

家に帰った僕は、

 

夕飯の買い物に行くという

母の後ろを付いて行った。

 

いつもの様に100円分のラムネ菓子や

飴やガムやらを買って屋上に行き、

 

UFO下部に空いている

三つ穴の一つから、

 

縄ばしごを伝って

中に入ろうとした。

 

すると中に一人先客がいた。

女の子だった。

 

赤い服に

長めのスカートをはいている。

 

こちらに背を向けて、

 

外側に出っ張っている

半球状の窓から、

 

屋上の様子をぼんやりと

眺めていた。

 

平日だったので誰もいないだろうと

タカを括っていた僕は、

 

女の子の存在に

少しばかりドギマギした。

 

すると女の子がこっちを振り向いて、

僕は更にドキリとする。

 

けれども、

 

ここで頭をひっこめると何だか

逃げ出したみたいで恰好悪いと思い、

 

僕は黙って中に入った。

 

僕が入って来たせいで

UFOの重心がずれ、

 

ぐらり、と傾いた。

 

女の子から一番離れた壁に

もたれかかりながら腰を下ろして、

 

下の階で買って来た駄菓子の中から、

まずラムネ菓子の包を開いた。

 

ちらりと見やると、

 

女の子はまた窓の外の方を見やり、

こちらに背中を向けていた。

 

歳は僕より一つか二つ上だろうか。

 

窓から入ってくる

夏の強い光のせいで、

 

肩まで伸びる黒髪の輪郭が

ちりちりと光っている。

 

あの子はどうして

外ばかり見ているのだろうか。

 

そんなことをぼんやり考えていると、

 

ラムネが一粒、

手の中から転げ落ちた。

 

ころころとUFOの中を転がり、

 

あっと思った僕は

その後を追いかける。

 

すると、

 

手が届きそうなところで

UFOの重心が移動して、

 

ラムネはまるで僕から逃げる様に

あらぬ方向へと転がってしまった。

 

ようやく捕まえて、

汚れを払うために息を吹きかける。

 

笑い声が聞こえた。

 

いつの間にか女の子が

僕の方を見ていて、

 

両方の手を口にあてて、

くすくすと笑っている。

 

「・・・それ、食べるの?」

 

そう言って女の子は、

僕の手にしたラムネを指差した。

 

その口調がまるで、

 

『一度落ちた物を食べるなんて、

キタナイ人』

 

と言っている様な気がして、

 

むっとした僕は返事の代わりに無言で、

ぽい、とラムネを口の中に放り込み、

 

大げさにがりがり噛んで呑みこんだ。

 

「おもしろいね」

 

女の子がまた笑った。

 

面白いのは結構だけれど、

面白がられるのは愉快なことではない。

 

憤然としていると、

 

女の子はすっと片手を

僕の方に差し出して、

 

「わたしも甘いもの欲しい。

一つください」

 

と言った。

 

口調は丁寧だけども、

図々しいにも程がある。

 

僕は幼い頭で何とか

嫌味を言ってやろうと考えた。

 

「知らない人から物を

貰っちゃいけないって、

習ったことはない?」

 

どうだ。

 

けれども女の子はまるで

怯まなかった。

 

「うん。でも・・・、でも、

わたしはあなたのこと、知ってるよ」

 

僕は驚く。

 

僕と彼女はどう考えても

初対面だった。

 

それとも実は同じ学校に

通ってるとかだろうか。

 

(続く)UFOと女の子(夏) 2/3へ

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