UFOと女の子(夏) 3/3

だからその日、

いつものように迎えが来て、

 

UFOから出て行こうとする

女の子に向かって、

 

僕は思い切って訊いてみた。

 

「ねえ、名前を教えてよ。

 

『宇宙人』じゃなくて、

君の本当の名前」

 

それを訪ねるのは二度目だったのに、

一度目よりも緊張した。

 

彼女も少し驚いたような顔をした。

 

すぐにいつもの

あの笑顔に戻ったけれど、

 

その顔はどこかしら困った様にも、

はにかんでいる様にも見えた。

 

「・・・分かった」

 

一呼吸置いて、

 

「  。」

 

少し俯き、呟く様に、

彼女はその名前を口にした。

 

そうして、いそいそと

UFOから出て行ってしまった。

 

しばらくして、

 

僕は自分の耳やら頬やらが

火照っていることに気付いた。

 

初めて彼女の名前を聞き出せたのだし、

彼女が答えてくれたことも嬉しかった。

 

次会ったらどんなことを訊こうかと、

 

その時からもう色々と質問を

考え始めていた。

 

けれどもその日以降、

僕が彼女に何か尋ねることはなかった。

 

次の日、

学校から帰った僕は、

 

何の唐突も無く原因不明の

高い熱を出してしまい、

 

しばらくデパートへは行けなかった。

 

寝込んでいる間、

何の根拠もなく、

 

彼女があのUFOの中で

僕のことを待っている様な気がして、

 

何だか申し訳ない気持ちに

なったりした。

 

そうして幾日か経ってから、

 

回復した僕は学校が終わってから

いそいそとデパートへと向かった。

 

彼女に会ったら、数日間

来れなかったことを謝らないと、

 

と思いながら。

 

けれども、

 

屋上へ続く階段を上がった僕は、

自分の目を疑った。

 

そこに有るべきものが無かった。

 

UFOが無い。

たった数日間の間に消えていたのだ。

 

それがあった場所は

ただのがらんとしたスペースになっていて、

 

支柱を支えていたボルトの跡しか

残っていなかった。

 

辺りを見回してみたけれど、

女の子の姿も見当たらない。

 

僕はデパート内に降りて

近くにいた店員に、

 

屋上のUFOはどうしたのか、

と訊いてみた。

 

するとその店員は作業していた

手を止めて僕を見下ろし、

 

「ごめんなさいねボク。

 

UFOと言われても、

私は聞いたこともないし、

知らないの」

 

と言った。

 

そんなはずはないといくら言っても、

店員は首を横に振るだけだった。

 

話にならない。

 

そう思った僕は、

 

別の店員を捕まえて

同じ質問をした。

 

けれども返ってきたのは

同じような答えだった。

 

三人目、四人目もそうだった。

 

僕は茫然としながら屋上に戻った。

 

たくさんある遊具の中、

UFOだけが存在していない。

 

辺りには他の遊具で遊ぶ

子供たちの声がしている。

 

まるで、

 

誰もそこにあったUFOのことなんて

覚えていないかのように。

 

当時、『喪失感』なんて

難しい言葉は知らなかったけれど、

 

あの時感じたのは

きっとそれなんだろう。

 

僕はベンチに座って

女の子を待った。

 

でも結局いくら待っても、

 

その日、女の子が屋上に

現れることはなかった。

 

もしかして、

 

あの子もUFOと一緒に

消えてしまったのかも知れない。

 

僕があの子の名前を

知ってしまったから。

 

そんなくだらない思いつきを、

 

その時の僕は懸命に

振り払わなくてはならなかった。

 

それから僕は、

 

ほぼ毎日の様に

デパートに足を運んだ。

 

百円分のお菓子を買い、

いつも半分だけ残して、

 

ベンチに座ってぼんやりと

女の子が来るのを待った。

 

皆UFOのことを知らんぷりする。

 

あの子ならきっと僕の気持が

分かってくれると思っていた。

 

会って話がしたかった。

 

けれども、

 

幾日が過ぎても、

何週間と経っても、

 

彼女が僕の前に

現れることはなかった。

 

そんなある日。

 

ベンチに座って女の子を待つ

僕の体に、

 

肌寒い風が当たった。

 

その瞬間、

 

僕は自分が女の子の名前を

すっかり忘れていることに気が付いた。

 

あり得ないことだった。

 

あれだけ知りたいと思った

彼女の名前を、

 

やっと教えてくれた名前を。

 

あの時の映像は

しっかりと思い出せるのに、

 

彼女が何と言ったのか、

どうやっても思い出せないのだった。

 

ああ、やっぱり。

知ってしまったからだ。

 

そう僕は思った。

 

僕が彼女のことを

知ってしまったから。

 

だから彼女は僕の前から

姿を消してしまったんだ。

 

自分の名前と

存在した痕跡だけを消して。

 

UFOと一緒に行ってしまったんだ。

 

気が付けば、

僕は泣き出していた。

 

ずっと何かを溜め込んでいた

ダムが壊れて、

 

溢れた水は両方の目から

涙になってこぼれた。

 

周りから、あの子はどうしたのだろう

と視線が集まる。

 

風が夏の終わりと秋の訪れを告げる中、

僕は声を上げて泣いていた。

 

(終)

続編→UFOと女の子(冬) 1/5

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