ドッペルゲンガー 2/3

ドッペルゲンガー

 

京介さんは、

 

住んでいるマンションのそばにある、

喫茶店にいるということだった。

 

店のガラス越し、

窓際の席にその姿を見つけた時には、

 

俺は生まれたばかりの小動物のような

気持ちになっていた。

 

ガランガランという喫茶店のドアの音に

振り向いた京介さんが、

 

「ヨオ」

 

と手をあげる席に走って行き、

俺は今日あったことをとにかく捲くし立てた。

 

「ドッペルゲンガーだな」

 

あっさりと京介さんは言った。

 

「自分とそっくりな人間を見る現象だ。

 

まあ、ほとんどは勘違いのレベルだろうが、

本物に会うと死期が近いとか言われるな」

 

ドッペルゲンガー。

 

もちろん聞いたことがある。

 

そうか。

 

そう言われれば、

ドッペルゲンガーじゃん。

 

不思議なもので、

 

正体不明のモノでも名前を知っただけで、

奇妙な安心感が生まれる。

 

むしろそのために、

 

人間は怪異に名前をつけるのでは

ないだろうか。

 

「おまえのはどうだろうな。

白昼夢でも見たんじゃないのか」

 

そうであってほしい。

 

あんなものにうろちょろされたら

心臓に悪すぎる。

 

「しかし気になるのは、

その女友達が見たというおまえだ。

 

おまえとドッペルゲンガーの二人を

見たような感じでもない。

 

話しぶりからすると、

おまえと一緒に歩いていたのは女だな。

 

本当に心当たりがないのか」

 

頷く。

 

「じゃあ、

 

ドッペルガンガーが誰か女と

歩いていたのか。

 

おまえの知らないところで」

 

「今度聞いておきます。

角南さんがどこで俺を見たのか」

 

俺は注文したオレンジジュースを

飲みながらそう言った。

 

そう言いながら、

 

京介さんの様子がいつもと違うのを

訝しく思っていた。

 

※訝しく(いぶかしく)

変なところがあって納得がいかない。疑わしい。不審だ。様子や理由がはっきりしなくて気がかりだ。心配だ。

 

あの飄々とした感じがない。

 

※飄々(ひょうひょう)

物事にこだわりが見られず、何を考えているのかが読み取りにくいさま。

 

逼迫感とでもいうのか、

声がうわずるような気配さえある。

 

※逼迫感(ひっぱくかん)

行き詰まって余裕のなくなること。

 

『ドッペルゲンガーだな』

 

と言ったその言葉からしてそうだった。

 

「どうしたんですか」

 

とうとう口にした。

 

京介さんは「うん?」と言って、

目を少し伏せた。

 

そして溜息をついて、

「らしくないな」と話し始めた。

 

京介さんがもう一人の自分に気づいたのは、

小学生の時だった。

 

初めは、

 

ふとした拍子に視線の端に映る

人間の顔を見て、

 

オバケだと思ったという。

 

視界の一番隅。

 

そこを意識して見ようとしても見えない。

 

なにかいると思ったのは、

あるいはもっと昔からだったかも知れない。

 

でも、視線の端の白っぽいそれが

人の顔だとわかり、

 

オバケだと思ったすぐあと、

 

「あ、自分の顔だ」

 

と気づいてしまった。

 

それは無表情だった。

 

立体感もなかった。

 

そこにいるような存在感もなかった。

 

顔をそちらに向けると、

自然とそれも視線に合わせて移動した。

 

まるで逃げるように。

 

いつもいるわけではなかった。

 

けれど疲れた時や、

なにか不安を抱えている時にはよく見えた。

 

怖くはなかった。

 

中学生の時、

ドッペルゲンガーという名前を知った。

 

その本には、

 

ドッペルゲンガーを見た人は死ぬ、

と書いてあった。

 

そんなのは嘘っぱちだと思った。

 

その頃には、

それは顔だけではなかった。

 

トルソーのように上半身まで見えた。

 

トルソー(wikipedia)

 

ただ、その日着ている自分の服と

同じではなかったように思う。

 

どうしてそんなものが見えるのか

不思議に思ったけれど、

 

誰かに話そうとは思わなかった。

 

自分と、自分だけの秘密。

 

高校生の時、

自己像幻視という病気を知った。

 

自己像幻視(コトバンク)

 

精神の病気らしい。

 

嘘っぱちだとは思わなかった。

 

ドッペルゲンガーにしても、

自己像幻視にしても、

 

結局自分にしか見えないなら同じことだ。

 

そういう病気だとしても同じことなのだった。

 

その頃には全身が見えていた。

 

視線の隅にひっそりと立つ自分。

 

表情はなく、

固まっているように動かない。

 

そして、

 

それがいる場所を誰か他の人が通ると、

まるでホログラムのように透過してしまい、

 

揺らぎもなく、

またそのままそこに立っているのだった。

 

全身が見えるようになると、

それからは特に変化はないようだった。

 

相変わらず疲れた時や、

精神的にピンチの時にはよく見えた。

 

だからといってどうとも思わない。

 

ただそういうものなのだと思うだけだった。

 

それがである。

 

最近になって変化が現れた。

 

ある日を境に、

それの『そこにいる感じ』が強くなった。

 

ともすれば、

 

モノクロにも見えたそれが、

急に鮮やかな色を持つようになった。

 

そして、

その立体感も増した。

 

誰かがそこを通ると、

 

『あ。ぶつかる』

 

と一瞬思ってしまうほどだった。

 

ただ、

 

やはり他の人には触れないし、

見えないのであった。

 

ところが、ある日、

 

部屋でジーンズを履こうとした時、

それが動いた。

 

ジーンズを履こうとする仕草ではなく、

意味不明の動きではあったが、

 

確かにそれの手が動いていた。

 

それから、

それはしばしば動作を見せるようになった。

 

決して自分自身と同じ動きを

するわけではないが、

 

なにかこう、

 

もう一人の自分として完全なものに

なろうとしているような、

 

そんな意思のようなものを感じて、

気味が悪くなった。

 

相変わらず無表情で、

自分にしか認識できなくて、

 

自分ではあるけれど

少し若いようにも見えるそれが、

 

初めて怖くなったという。

 

(続く)ドッペルゲンガー 3/3

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