四隅 4/4

手

 

つまり、

 

消えてしまった人間に関する記憶が

周囲の人間からも消えてしまい、

 

矛盾が無いよう過去が上手い具合に

改竄(かいざん)されてしまうという、

 

オカルト界では珍しくない逸話だ。

 

しかし、いくらなんでも、

 

5人目のメンバーがいたなんて、

現実味が無さ過ぎる。

 

その人が消えて、

 

何事もなく生活できるなんて

ありえないと思う。

 

しかし師匠はその話を聞くと、

感心したように唸った。

 

「あのオトコオンナがそう言ったのか。

面白い発想だなあ。

 

その山岳部の学生の逸話は、

 

日本では四隅の怪とかお部屋様とかいう

名前の古くから伝わる遊びで、

 

いるはずのない5人目の存在を

怖がろうという趣向だ。

 

それが、

実は5人目を出現させるんじゃなく、

 

5人目を消滅させる、

神隠しの儀式だったってわけか」

 

師匠は面白そうに頷いている。

 

「でも、過去の改竄なんていう

現象があるとしても、

 

始めから5人いたら、

 

そもそも何も面白くない

こんなゲームをしますかね」

 

「それがそうでもない。

 

山岳部の学生は一晩中、

起きているためにやっただけで、

 

むしろ5人で始める方が自然だ。

 

それから、

 

ローシュタインの回廊ってやつは、

もともと5人で始めるんだ」

 

5人で始めて、

 

途中で一人が誰にも

気づかれないように抜ける。

 

抜けた時点で回転が止まるはずが、

 

なぜか延々と続いてしまう

という怪異だという。

 

「じゃあ、自分たちも5人で

始めたんですかね。

 

それだと途中で一度、

逆回転したのはおかしいですよ」

 

5人目が消えたなんていうバカ話に

真剣になったわけではない。

 

ただ師匠がなにか隠している

ような顔をしていたからだ。

 

「それさえ、

実際はなかったことを、

 

5人目消滅の辻褄合わせのために

作られた記憶だとしたら、

 

ストーリー性がありすぎて

不自然な感じがするし、

 

なんでもアリもそこまでいくと

ちょっと引きますよ」

 

「ローシュタインの回廊を知ってたのは、

 

追加ルールの言い出しっぺの

オトコオンナだったね。

 

じゃあ、実際の追加ルールは

こうだったかも知れない。

 

『1、

途中で一人抜けていい。

 

2、

誰もいない隅に来た人間が

次のスタート走者となり、

 

方向を選べる』

 

とかね」

 

なんだかややこしい。

 

俺は深く考えるのをやめて、

師匠を問いただした。

 

「で、なにがそんなに面白いんですか」

 

「面白いっていうか、うーん。

 

最初からいなかったことになる

神隠しってさ、

 

完全に過去が改竄されるわけじゃ

ないんだよね。

 

例えば、

誰のか分からない靴が残ってるとか、

 

集合写真で一人分の空間が

不自然に空いてるとか。

 

そういうなにかを匂わせる傷が必ずある。

 

逆に言うと、

 

その傷がないと誰も何か起ってることに

気づかないわけで、

 

そもそも神隠しっていう怪談が

成立しない」

 

なるほど、

これはわかる。

 

「ところでさっきの話で、

一箇所だけ違和感を感じた部分がある。

 

キャンプ場にはレンタカーで

行ったみたいだけど・・・

 

4人で行ったなら、

普通の車でよかったんじゃない?」

 

師匠はそう言った。

 

少なくとも、

京介さんは4人乗りの車を持っている。

 

わざわざ借りたのは、

 

師匠の推測の通り、

6人乗りのレンタカーだった。

 

確かに、たかが1泊2日。

 

ロッジに泊まったため、

 

携帯テントなどキャンプ用品の

荷物もほとんどない。

 

どうして6人乗りが必要だったのか。

 

どこの二つの席が空いていたのか

思い出そうとするが、

 

あやふやすぎて思い出せない。

 

どうして6人乗りで行ったんだっけ・・・

 

「これが傷ですか」

 

「どうだかなぁ。

ただアイツが言ってたよ。

 

かくれんぼをしてた時、

勝負がついてないから粘ってたって。

 

かくれんぼって、

時間制限があるなら鬼と隠れる側の勝負で、

 

時間無制限なら、

最後の一人になった人間の勝ちだよね。

 

どうしてかくれんぼが終わらなかったのか。

 

あいつは誰と勝負してたんだろう」

 

師匠のそんな言葉が、

頭の中を怪しく回る。

 

なんだか気分が悪くなって、

逃げ帰るように俺は師匠の家を出た。

 

帰り際、俺の背中に、

 

「まあそんなことあるわけないよ」

 

と師匠が軽く言った。

 

実際、それはそうだろうと思うし、

今でもあるわけがないと思っている。

 

ただその夜だけは、

 

居たのかも知れないし、

居なくなったのかも知れない。

 

そして、

 

友達だったのかも知れない

5人目のために祈った。

 

(終)

次の話・・・「鉄塔

原作者ウニさんのページ(pixiv)

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