受け継がれた血 1/2

DNA

 

私が所属する地方大学医学部の、

忌まわしい過去にまつわる話を。

 

太平洋戦争も終わりを迎えようと

していた頃、

 

K大学医学部では世にも忌まわしい、

ある『実験』が行われていた。

 

敵兵捕虜の『生体』を利用した、

解剖実験である。

 

S博士を中心とした研究班は、

まるで実験動物か何かのように、

 

軍から送られてくる敵兵を

生きたまま切り刻み、

 

器官や臓器を摘出。

 

ホルマリン漬けにしたそれらを

大量に並べ、

 

他の研究班員らと共に、

悦に入っていたという。

 

※悦(えつ)

満足して喜ぶこと。

 

しかし、この狂気の沙汰も、

終戦と共に終わりを告げる。

 

辛くも戦犯追求を逃れたS博士は、

大学を辞し、開業。

 

医学者として名声を得ていた

S博士の病院は、

 

たちまち市民の好評を得て、

現在まで存続している。

 

S博士は終戦後、

数年して亡くなり、

 

その息子であるS氏が院長に就任した。

 

S院長には、

二人の息子と一人の娘がおり、

 

代々医師の家系である名に恥じず、

二人の息子は医師に。

 

娘も、医師は断念したが、

教員の道を選んだ。

 

しかし・・・

順風満帆かに見えたSの一族に、

 

過去からの影が迫り始めたのは、

実に戦後半世紀近くを経てからであった。

 

S院長の長男は、

その日も朝食をそこそこに、

 

市内の高層マンションから

慌しく出勤していった。

 

妻とまだ小学生の息子、

 

そして最近やっとよちよち歩きを始めた、

かわいい娘。

 

殺人的に多忙ではあったが、

長男にとって家族は、

 

かけがえのない存在であり、

心の癒しだった。

 

祖父が設立し、

 

自分の勤務先でもある病院に

向かった彼は、

 

勤務先のいつもと違う雰囲気に、

違和感を覚えた。

 

顔なじみの看護師が彼を見つけるや否や、

青い顔をして駆け寄ってくる・・・

 

急変か?

 

嫌な予感がする。

 

彼女の話を聞き終わるか

終わらないかのうちに、

 

衝撃で彼の頭の中は真っ白になった。

 

・・・妻は泣きじゃくるばかりで、

 

警察の事情聴取にも、

まともに応じられない有様だった。

 

彼とて同じ気持ちだ。

 

「なぜ息子が・・・」

 

さっきから同じ思いが去来する。

 

※去来(きょらい)

行ったり来たりすること。

 

反抗期だが、

 

他の子供と変わったところも

特には感じなかった。

 

人一倍、妹をかわいがっていた、

あの子がなぜ・・・

 

ようやく妻が語ったところによると、

 

彼が出勤してからしばらくして、

台所に居た妻の耳に、

 

「○○ちゃん!パパが帰ってきたよ!

窓からおてて振っておむかえしよう!」

 

という息子の声が聞こえたそうだ。

 

彼が忘れ物でもしたのかと訝しんだ妻が、

リビングの子供たちのところに行き、

 

そして目にしたのは・・・

 

ベランダで幼い妹に「たかいたかい」

をする息子の姿だった。

 

「危ない!!」

 

妻が駆け寄ろうとした時、

息子がこちらを見て、

 

かわいい妹を抱き上げた手を、

外に向かって離した・・・

 

そこまで言うと妻は、

また泣きじゃくり始めた。

 

S院長の次男は、

少々放蕩が過ぎる人物だった。

 

※放蕩(ほうとう)

思うままに振る舞うこと。特に、酒や女遊びにふけること。

 

あちらこちらに愛人を作っては

捨てるような、

 

そんな男。

 

次男にとっては

最近付き合い始めたDも、

 

特別な思い入れもない、

数いる愛人の一人でしかなかった。

 

・・・はずだった。

 

父の病院での当直明け、

次男はフラフラする頭を抱えながら、

 

自分がDにあてがっている

マンションにたどり着いた。

 

Dは美容師で、

 

比較的年増ながらもよく気がつく女で、

次男は彼女を気に入っていた。

 

オートロックを解除し、

昨晩洗っていない髪を掻きながら、

 

次男はDの部屋のチャイムを鳴らした。

 

いつもであれば、

 

笑みを浮かべて「お疲れさま~」

と迎えてくれるD。

 

・・・居ないのか?

 

次男はノブを回してみる・・・

開いた。

 

・・・居るのか?

 

無用心にも程がある。

 

ここは元々俺の持ち物・・・

にしてもなんだよこの臭いは・・・

 

鈍った頭で次男はそう考えた。

 

「おい!いるのかぁ!?」

 

・・・玄関を上がる。

 

それにしてもくせえな・・・

 

「おい!!××!寝てんのか?」

 

・・・廊下をたどる。

 

いやこれは・・・

嗅ぎ慣れた臭い・・・

 

「かくれんぼでもしてるつも・・・」

 

・・・リビングに通じるドアを開ける。

 

この錆びたような臭いは・・・

 

一面の、血の海。

 

包丁を握り締め、

部屋と同じく血まみれになったDは、

 

血の海の中から次男に微笑みかけた。

 

「お疲れさま・・・ごめんね部屋、

こんなに汚しちゃって・・・」

 

一瞬、次男は混乱したが、

彼も医者の端くれ。

 

血を見て、妙に冷静になった。

 

「お前、俺のマンションで

何やってんだよ・・・」

 

次男は、普段温和なDが

同僚のGについて語る時だけ、

 

妙に攻撃的な態度になることに

気がついていた。

 

機会があったら殺してやりたいとまで、

ふざけ半分ながらも語るDの顔を見た時、

 

豪胆な次男も少なからずゾッとした

気分になったことが思い出される。

 

すると・・・

 

血の海の中、

Dの前に転がる肉塊は、もしや・・・

 

Dは頷くと、

泣き出しそうな表情になった。

 

「あなたに迷惑はかけない!

絶対!!」

 

もう充分巻き込まれている。

 

次男は、

 

「バカ言ってんじゃねえよ!

隠す方法を考えろ!!」

 

そう叫びながら、

 

Dの手から包丁をもぎ取り、

肉塊に向かった。

 

(続く)受け継がれた血 2/2

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