受け継がれた血 2/2

DNA

 

結局、事件は発覚し、

Dは逮捕された。

 

週刊誌は、

 

『美容師バラバラ殺人事件!

事件の陰に医療関係者の存在!?』

 

と書きたてた。

 

人体をバラバラにしようとしても、

相当な力と、

 

関節の場所を熟知していないと

履行できない。

 

『犯人Dの愛人医師に疑惑浮上!?』

 

次男の必死の努力も、

どうやら報われなかったようだ。

 

しかし、そんなことももはや、

次男には関係がなかった。

 

彼は既に「死んで」いた。

 

「自殺」だったそうだ。

 

少なくとも「書類上」は。

 

・・・次男の死亡証明書の署名欄には、

 

他ならぬ父親、

S院長の名前が書き込まれていた。

 

では、教師になった長女は?

 

長女は教師になった後、

同僚の男性教師と結婚。

 

三人の男の子をもうけ、

幸せな家庭を築いていた。

 

のちに、

 

「毎日家族で庭に出て運動したり、

休日は出かけたりと、

 

非常に仲が良さそうに見えた」

 

と、近所の住民が証言している通り、

絵に描いたような幸せな家族だった。

 

息子たちは成績優秀で、

 

いじめられっ子をかばいもする、

心の優しい少年に育っていた。

 

長女は満足し、

 

この幸せがずっと続けばいいのに・・・

そう思っていた。

 

最近、近所で動物の虐待の跡のある

死体が見つかったり、

 

女の子が二人、暴漢に襲われたりと、

何かと物騒な事件が起こっていた。

 

長女とその夫は、

息子たちと報道を見ながら、

 

「親の教育が悪い」

などと話し合っていたという。

 

末の弟の同級生の、

 

少し身体は弱いが元気いっぱいだった

H君が行方不明になったのは、

 

ちょうどその頃だった。

 

三人の息子は皆、

行き先に心当たりはないという。

 

彼女も何度か会話を交わしたことが

あっただけに、

 

不安が胸をよぎった。

 

次の日の報道は、

世間を震撼させた。

 

『行方不明児童の遺体の一部、

小学校の校門にむごたらしい姿で放置!』

 

『警察に挑戦状!?

 

犯人は・・・・・・を名乗り、

遺体の側に挑戦状らしきものを・・・』

 

それから幾日か、

彼女は不安な日々を過ごした。

 

ショックでなかなか食事が喉を通らない。

 

あんな可愛らしい子供を一体誰が・・・

 

息子たちも憤っていた。

 

家族全員が悲しみ、

憤っていた。

 

・・・チャイムの音。

 

彼女はやり過ごそうかとも考えたが、

気を取り直して応対する。

 

「・・・はい・・・え?・・・はい・・・

今、なんとおっしゃいました?」

 

世間は二度目の、

 

しかも、一度目と比べようもない

事実の発覚に、

 

パニックとなった。

 

『少年A、14歳。

殺人・死体損壊・遺棄の容疑で逮捕』

 

現在、彼女とその家族は、

忌まわしいその地を離れ、

 

父の病院に近いD市に居を移している。

 

S博士は解剖学の偉大な研究者として、

医学史にその名を残し、

 

また、子孫の血にもはっきりと、

その”形質“を受け継がせ続けている。

 

※形質(けいしつ)

生物のもつ形態や生理・機能上の特徴。遺伝によって表現型として次の世代に現れる要素。

 

(終)

 

参考(外部リンク)

福岡美容師バラバラ殺人事件とは【江田文子】

福岡美容師バラバラ殺人事件(wikipedia)

福岡美容師バラバラ殺人事件(LET IT BLEED Ⅲ)

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