死が迫った妻が夫に語った秘密
先日、俺の叔父さんが下校する娘を迎えに行く途中、ふと花屋に立ち寄り、マーガレットを見て亡くなった奥さんのことを思い出したそうだ。
これは、叔父さんの若い頃の思い出話。
奥さんとの不思議な出会い
小学校の七夕の時、下校中に印象的で綺麗な女の人を見かけた。
大学生になった時、当時の彼女とのデート中に、またその女の人を見かけた。
就職した時も、通り雨を避けるために入った店で、その女性に出会った。
その時、子供の頃から密かに思いを募らせていた叔父さんは、思い切って彼女に交際を申し込んだそうだ。
そして二人は結婚した。
そんな不思議な出会いだったわけだが、夫婦生活の中でもおかしなことが何度かあったらしい。
忘れ物を取りに家へ戻ると、今出たばかりなのに妻がいない。
捜してみると、さっきはいなかったはずの場所にいる。
しかも、マーガレットを手に持って。
こうやってふと消えることがたまにあった。
叔母さん(以下、涼子さん)は、人差し指と中指を重ね合わせるのが好きだったらしい。(欧米でいうところの『幸運を祈る』の表現と同じ)
涼子さんいわく、「こうしていると、私(人差し指)があなた(中指)に抱かれているように見える」という理由で。
それはさておき、しばらく経って俺が生まれた頃くらいに、涼子さんはガンにおかされた。
仕事が忙しかったが、それでも叔父さんは涼子さんの死に目になんとか間にあった。
自分の最期が薄々わかっていたらしく、涼子さんは自分の秘密を話し始めたそうだ。
「私はね、時を越えることが出来るの。私は将来自分の夫になるあなたを子供の時から見ていたのよ」みたいなことを言い、叔父さんは「じゃあ、俺の未来も見に行ったのか?」と聞き返した。
すると、涼子さんは「一度だけね」と言ったそうだ。
そんな話をしているうちに、涼子さんは亡くなった。
叔父さんは悲しみに暮れたけれど、それでもその後、娘を立派に育てあげた。
「あの時、涼子はあんなことを言ったが、本当に面白い話だった」
そんなことを思い出しながらマーガレットを見つめていたら、その瞬間、叔父さんの頭の中で全てが繋がったらしい。
まだ涼子さんがが生きていた頃、手にしていたマーガレットは・・・。
背後に亡くなった妻がいることを確信し、叔父さんは振り返ってみた。
すると、車道を挟んだそこに涼子さんがいた。
人差し指と中指を重ね合わせて。
手にしたマーガレットを差し出す叔父さん。
目から涙があふれ出てきたそうだ。
叔父さんは目を潤ませながら俺にそんな話をしてきた。
※マーガレットの花言葉
心に秘めた愛。
(終)