いつもより男前に見える羽織
これは、近所のおじさんの話。
そのおじさんは着物が大好きだそうで、いつ見かけても着物を粋に着こなしている。
最近ではリサイクルの着物を扱うお店が増えているので、おじさんも色々と見に行くらしい。
リサイクルと言っても、クリーニングした後に販売するお店も多いそうで、昔ほどボロいものばかりではないそうだ。
その羽織を羽織る度に
ある日、おじさんは古いけれど状態の良い『羽織』を見つけた。
値段も割安と思えるものだったので、店の人に「羽織ってもいいか?」と尋ねたそうだ。
店の人いわく、大正時代頃の羽織だそうで、ほとんど着用していないのではないか、との事だった。
少し虫食いがあるが、目立つ場所ではないし、渋い模様がおじさん位の年齢の人にはしっくりくる様に見えたという。
姿見の前でさっと羽織ってみると、その時に来ていた着物にも良く合い、またサイズも小さすぎず良い感じだったという。(昔の着物はサイズが小さいものが多いそうで、なかなかちょうどのサイズはないらしい)
おじさんは早速、その羽織を購入する事にした。
店の人に手入れの方法などを聞きながら、会計を済ませた。
家に戻る途中、どの着物に合わせようか、あの帯を締めると素敵だろうな、などと考えていると、ふっとその羽織を着た背の高い男性の姿が頭に浮かんだ。
おじさんは、「ああ、この人が前の持ち主かもしれない。大正時代のものだと言っていたな。持ち主はもうこの世にはいないのだろう」と思い、「私が大切に着させていただきます」と心の中で呟いたそうだ。
その後、その羽織を羽織る度に、その男性の姿が頭に浮かぶのだという。
そして、その羽織はおじさんの友人たちにも好評で、「いつもより男前に見える」と言われるらしい。
おじさんは、「だからこの羽織はとても大切にしてるんだ。粗末にすると罰が当たるかもしれないね」と笑った。
(終)