ちいちゃい私を見つけてくれたあの子は神様
私の母方の親戚には脳に障がいのある子がいて、これはその子についての話。
名前を仮に『ユリナちゃん』とします。
去年のお盆に実家に帰省していた時、ユリナちゃんの家族が我が家へ遊びに来ました。
ユリナちゃんは13才になるけれど、知能は幼児レベルしかありません。
あの部屋に置いてきた
私の横にぴたっとくっ付いて座り、おもちゃとかテレビアニメとかについてつらつらと喋っていたんだけど、ふと「ねえねえ、ちっちゃいフミちゃんはどこ?」と言うのです。(フミは私の仮名)
私が「フミちゃんはここにいるじゃない?」と言うと、「ううん、ちがう。ちっちゃいフミちゃん」とやっぱり言うので、私も調子を合わせて「あらら、どこにいたの?」と聞いてみました。
すると、ユリナちゃんは「あっち」と、私の使っていた子供部屋を指差しました。
ユリナちゃんと私は20近く年が離れているし、私は高校進学で学校の寮に入っていた為、15才までしかその家に住んでいませんでした。
ですから、ユリナちゃんが小さい頃の私を知っているはずがないし、子供部屋はもう物置になっていましたから、ひと目ではその部屋が子供部屋だったとは分かりません。
私はびっくりして、「今はもういないの?」と聞くと、「さっきまでいたんだけど。隠れちゃったかなあ」と言ったきり、ユリナちゃんはまたおもちゃの話を始めてしまいました。
続きが聞きたかったけれど、あんまり根掘り葉掘り聞くのもあれだし、それ以上の事は聞けませんでした。
私は子供の頃、とても神経質で過敏で、また友達が少ない子供だったのですが、今はとても図太くなり、社交的だと周囲によく言われる大人になりました。
もちろん、環境の変化や出会った友人たちのおかげだとは思いますが、私は子供の頃の自分をあの部屋に置いてきたのかもしれません。
実家から戻る時、「一緒においで。置いてきぼりにしてごめんね」と思いながら、家を出ました。
彼女が今も私の中にちゃんといてくれると良いなあと思います。
今ならきっとその子を抱きしめてあげられると思うからです。
後日談
この話をあとで母にした時に、母が「あの子は神様みたいなもんだから」と言いました。
私の母は特に信仰心が篤(あつ)いわけでもなく、オカルト的な事には否定的なので、珍しい事を言うなあと思ってさらに聞きました。
なんでも母の生まれた村では、そういう障がいのある子供が各家に持ち回りの様にして生まれてくるという事でした。
複数いる事はなく、大概は村に一人なんだそうです。
それで、村の人たちは「この子は神様が使わしてくれた子なんだ」と、そういった子供をとても大切に思っているそうです。
その親戚は母の実家の後を継いでいるので、その家にユリナちゃんが生まれた時に、母は「うちの順番なんだなあ」と思ったと言っていました。
“閉鎖的な田舎でそういった子を持つ家を除け者にしない為の知恵”だとは思いますが、『ちいちゃい私』を見つけてくれたユリナちゃんは、やっぱり神様に近い所にいるのかも知れないなあと納得したのでした。
ちなみに、この母はオカルト否定者ですが、そのわりには不思議な事を多く体験している人だったりします。
臨死体験をしたり、お化けを泥棒と思って捕まえようとしたり・・・。
だから、こういう事をすんなりと受けとめるのかもしれません。
(終)