ハゲの木と呼ばれている木がある
これは、後輩の話。
彼が大学のサークルで山歩きをしていた時のこと。
休憩中に腰を下ろしていると、「あーっ!」と叫ぶ、注意の声が後ろからかけられた。
何だ?と振り返ると、頭髪の上にピシャッと何か落ちてきた。
頭に手をやってみたところ、樹液か何かの汁のようだった。
タオルを出して拭いている彼の元へ、先輩が一人駆け寄ってくる。
間に合わなかったか、とでも言うような雰囲気・・・。
「ありゃ、仲間内で『ハゲの木』って呼ばれてる。あれが出す液を被ると、まず外れなくハゲるんだとさ」
先輩は何とも微妙な表情で、彼の顔を見つめた。
たぶん彼も、微妙な表情で先輩を見返したのだと思う。
場の空気が厭(いや)な感じに変わっていたらしい。
周りを見回したが、どれがハゲの木なのか、彼には全然わからなかったという。
彼は大学を卒業後、私と同じ会社に就職した。
二人で他社に出向くと、いつも彼の方が上司扱いされていた。
それは私が童顔な所為もあるだろうが、彼の見事な頭と、それにマッチした顔が一番の原因だったはずと固く信じている。
(終)
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