赤い靴

もう15年くらい前の話。

 

当時の職場(24時間営業の書店)に、ダイビングをやってる後輩がいて、

地元の人間しか知らない釣りの好ポイントを聞いてきたって言うんだよ。

 

海岸線の国道から20分くらい入った広場に車を停めて、

そこから荷物を持って、さらに30分は歩かなきゃならない。

 

でも、30cmオーバーのニザダイが入れ食いで、

時々グレもくる。

 

「先輩がいれば絶対大漁。

大丈夫ッスよ!俺の車、4駆ですから」と言う。

 

平日に2人で休みを取り、その釣り場に出掛けた。

すごく良い天気だった。

 

後輩自慢の4駆を停めたら荷物を持って、

暑い中、けもの道のようなところをひたすら歩く。

 

変な寒気がするし、

なんだかセミの鳴き声も妙に遠くで聞こえる気がして、

 

「熱中症?やばいじゃん」

とか思っていたら、遠くにヒラヒラした赤いものが見える。

 

「?」

 

「何だ??」って思って歩いていると、

その赤いもの次第に近づいてきた。

 

なんていうか、

「これから演奏会に出ます」って感じの可愛い女の子。

 

多分、小学校の2、3年生くらいで、

真っ赤で綺麗な服を着て、歩いて来るんだ。

 

肩に大きなカバン背負って、

俺、寒いし、もう声出すのも怖くて。

 

その子と目を合わさないように、

後輩の陰に隠れるみたいに黙って歩いた。

 

釣り場に着いてから後輩に、

「あの子、地元の子かな?赤い服、可愛かったな。ハハハ」とか言ったら、

「変な冗談やめて下さいよ」って、全然相手にされない。

 

「途中で赤い服の女の子とすれ違ったろ、見なかったのかよ?」と食い下がったら、

「オレ怖がりだけど、そんな安い話には、ひっかかりませんよ」と笑う。

 

確かに良い釣り場で、

その日は大きなニザダイと、形のいいグレを結構釣った。

 

でも、どうしても赤い服の女の子が気になって、

「日が暮れてからが勝負っスよ」という後輩を説得し、

早めに釣りを切り上げた。

 

荷物と魚の詰まったクーラーボックスを担いで車へ戻ったら、

車を停めた広場のすぐ手前に、片方だけ真っ赤な小さい靴が落ちてた。

 

さすがに後輩も青ざめ、

2人慌てて荷物を乗せて車を走らせた。

 

一番近いコンビニに着くまで、どっちも無言だったよ。

だって最初に車を停めた時、そんな靴なんか絶対に落ちてなかったし。

 

その釣り場にはそれから一度も行ってないし、

これからも行く気はない。

 

(終)

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