倉庫番の夜勤で体験した不可解な出来事
数年前のことになる。
俺は当時、倉庫を管理する会社で働いていた。
主な仕事は倉庫番で、3交代24時間体制で事務所に詰める感じだ。
他には事務処理とごく稀にある来客の対応、そんなことをしていた。
俺は”給料が良い”という理由だけで深夜勤務を希望した。
新卒入社で、最初の3年間はA先輩と二人で事務所詰め。
深夜はそれこそ来客も電話も無いので、二人で十分だった。
先輩は元気な人で、俺が定時に出勤すると必ず先に出社していて、「オッス!お疲れ!」と挨拶していた。
そんな先輩は仕事以外のことは色々と教えてくれた。
仕事のことは「適当にやってればいいんじゃない?」と、ろくに教えてくれなかった。
仕事といってもほとんどやることはなく、ダラダラと一晩過ごして夜明け頃に交代して帰宅。
これだけで日勤の3割増しの給料になる。
ただ、何もしていなくても、ずっと夜勤というのはやっぱり疲れる。
10年は頑張って金貯めて転職しよう、と考えていた。
昼間は遊べないし、夜は仕事しているので金も貯まるだろう、そう思っていた。
もう夜勤は懲り懲りだ
4年目に入った時、後輩にB君が入ってきてA先輩と交代になった。
それ以降は、俺とB君が夜勤に。
B君は俺と同じような考えで、「給料が良いから夜勤にしました」と言っていた。
A先輩はその頃に結婚し、シフトを日勤にしたいと希望を出していたようで、すんなりと配置換えが行われた。
B君とは同年代でなんとなく趣味も合い、上手くやっていた。
毎晩バカな話をして、楽しく過ごしていた。
ただ、時折意味不明なことを言ったり、なんとなく言葉の使い方が変だな、と思うこともあったが・・・。
俺は友達が少ないから、B君なら友達になれるかなと思って、休日に遊びに行かないか?と誘ってみたりもした。
だが、「勤務先の人とプライベートは・・・・・・」とはぐらかされて、結局一度も職場以外では会うことがなかった。
それでもB君とは楽しく仕事をしていた。
夜勤の相方がB君に代わってから3年ほど過ぎたある時、新入社員として女の子が入ってきた。
その頃、倉庫を少し拡張していたので、当番の人数を増やそうということで社員を募集していた。
「今日から一緒に夜勤することになったC美です。よろしくお願いします」
その女の子は色白で、可愛らしい感じだった。
ただなんとなく、声と笑顔が儚そうというか、幸薄そうというか、淡い感じの女の子だった。
C美は俺に仕事を教われと言われたのか、ほとんど俺にしか話しかけてこなかった。
俺とB君が話している時はあまり話に加わらず、仕事の用件で俺に話しかけた時に軽く雑談するぐらいしか会話らしい会話はしなかった。
B君も、C美が俺に話しかけている時は話に入ってこなかった。
それから一週間が過ぎた頃、C美が出勤してこなくなった。
初日は風邪かな?と思い、B君も気にしていない様子だったのでそのまま放っておいた。
だが、次の日も無断欠勤だったのでさすがにおかしいなと思い、明け方頃にB君に聞いてみた。
「C美、なんで休んでるのか知ってる?」
B君は不思議そうな顔をして俺に言った。
「C美って誰っすか?日勤の子?」
「いやいやいや、ちょっと待て。ここ一週間一緒に居たじゃないか。この前入った新入社員の女の子だよ」
すると、B君はまた不思議そうな顔をして言った。
「は?ここ5年は新入社員なんて入ってないじゃないっすか。何言ってんすか?」
え?何言ってんのコイツ?と思った瞬間、B君はなんとも言えない顔で笑った。
「ケケケケケケケケケケケケケ」と甲高い声で笑うB君。
そして、「先輩、疲れてるんすよ。ゆっくり休んだ方がいいですよ。僕も今日は帰ります」と。
B君は帰り支度をして、最後に意味不明なことを言った。
「しかし、種類が違うと見えないんすね」
俺はその意味がよく分からなかった。
その日は考えもまとまらず、家に帰っても何を考えるでもなしにぼーっと過ごした。
出勤する時間になり、「よし、もう一回B君に話を聞こう」と心に決めて会社に向かった。
そして会社に着いてドアを開けると、「オッス!お疲れ!」とA先輩が元気に挨拶してきた。
「あれ?先輩どうしたんですか?」
「ん?何が?お前こそ変だぞ?疲れた顔してるし大丈夫か?」
「B君は今日は休みなんですか?」
「Bって誰だ?昼間のヤツだっけ?お前、ほんと変だな」
そう言ってA先輩は笑い出した。
「ケケケケケケケケケケケケケ」と、昨日のB君と同じような甲高い笑い声で・・・。
俺はなんだかもう怖くなり、「今日は休ませて下さい」と言い残して早々に帰宅した。
次の日の午前中、会社に行って辞めたい旨を社長に伝えた。
社長は、「人手不足だから急に言われても困るんだよねぇ。夜勤どうしたらいいの?」などと言いながらも、切羽詰まっている俺を見て、退職を承諾してくれた。
それっきり、その倉庫には行っていない。
俺のあの6年間はなんだったのだろうか。
もう夜勤は懲り懲りだ。
(終)