アパートに訪ねてくる1羽のハト
私の友人はハト好きです。
そんな友人がある日、
私に嬉しそうに話してくれました。
「最近、うちによく
ハトが訪ねて来るんだ」と。
彼はアパートに一人住まいなのですが、
窓を開けて寝ていると、
ハトが窓から入ってくるというのです。
はじめは警戒してか
窓の側までしか来なかったのが、
窓の中に入ってくるようになり。
今では、寝ている彼の体の上に、
乗っかってくるというのです。
しかし、そのハトが訪ねてくるのは
必ず彼が寝ている時だけ、
だというのです。
そのハトの姿を見たいとは
思っているのだけど、
下手に起きてハトが逃げ出しそうで。
二度と寄り付かなくなっても寂しいので
我慢している、と。
そんなハト、本当にいるのかな、
と思いましたが、
彼があまりにも嬉しそうなので
無粋なツッコミは控えておきました。
それからしばらくして、
私は彼の部屋に遊びに行きました。
まだ残暑が厳しい日で、
部屋の窓は開けっ放しです。
私は部屋で寝転んでいたのですが、
友人は買い物に出かけました。
そのうち私は、
ウトウトとしはじめました。
ふと気づくと、
体の上に何か乗っています。
その体の上のものは、
「クルゥー、クルゥー、」
と鳴いているようです。
ああ、例のハトだなと思いました。
しかし友人に、
「もし俺の留守中にハトが来ても
ハトを見るなよ」
と言われていたので、
目を閉じたままでいました。
そのうちそのハトは、
だんだんと私の足下から頭の方へと
上がってきます。
しかし、何か変なのです。
「この鳴き声は、
本当にハトの鳴き声なのかな?」
どちらかと言うと・・・そう、
人がうめいている声に近いような気がします。
いや、これは人のうめき声だ。
「これ」はハトじゃない。
「それ」が、だんだん頭の方に
近づいてきます。
生温かい息が、
体に吹きつけられます。
「うぅー、うぅー、」
恨めし気なうめき声が、
私の胸の辺りから聞えてきます。
目を開けて正体を確かめるべきか。
とうとう、うめき声と生温かい息は
首の辺りに・・・。
そこで、私は気を失いました。
次に目が覚めると、
友人が買い物から戻って来ていました。
「ハトは訪ねてきたか?」
無邪気に尋ねる友人に、
本当のことを話すべきか。
私は迷いましたが、
「いいや」とだけ答えました。
そして、すぐに
「ちょっと気分が悪くなったから帰る」
と私は彼の家を出ました。
その後も「ハト」は、
彼の部屋に訪ねて来るそうです。
(終)