慣れ親しんだ通学路での不思議な体験談
これは、僕が小学校低学年の時の話。
その日は終業式で、自分の席として使っている机の中のものだとかを引き出しごと持って帰らなければいけなかった。
なので、みんな大きめの紙袋などを持って来ていて、僕も同じように紙袋の中に机の中のものを引き出しごと入れて下校した。
でも、下校途中でどうもおかしなことに気が付いた。
「もうここさ来たらいかんばい」
そこは慣れ親しんだ道のはずで、確かに歩いているのに全然進んでいない。
100メートルくらいの道を、知らず知らずのうちにループしている。
それに、いつの間にか音が聞こえない。
ここは田舎なので人の気配はほとんど無いけれど、当時は夏だったのにセミも鳴いていない。
僕は急に怖くなってとにかく歩き続けたけれど、やっぱりループする。
しばらくすると持っていた紙袋が破れて、持ち手の部分が無くなってしまった。
抱えて持って帰ろうとしたけれど、まだ体が小さかったので荷物で前が見えなくなり、それはもう見事にすっ転んだ。
どこそこを擦りむいて痛く、疲れ切ってしまった。
なにより、この時かなり時間が経っていたはずなので、帰りが遅くなって母に怒られることが怖くて座り込んで泣いた。
すると、道の脇に建ってる家からおじいさんが出てきた。
転んでぶちまけてしまった荷物と破れた紙袋を見てか、「新しか袋ばやるけん、泣かんとよ。付いて来なっせ」と言われ、そのおじいさんと一緒に散乱した30センチ定規や鉛筆削りなどを拾い、素直に付いて行った。
その家にはおばあさんもいて、「おじいさんが袋を取ってくるまで食べてな」と水羊羹をくれた。
でもこの時も、おじいさんとおばあさん、そして自分以外から発せられる音は聞こえなかった。
そして新しい紙袋を貰い、また歩いて帰ることに。
帰り際に後ろからおじいさんに、「もうここさ来たらいかんばい」と言われたので、「通学路だよ?」と返事すると、「・・・来たらいかんいかん」と言うだけだった。
道がループしていることを聞いてみると、「もう大丈夫」という返事をもらった。
半信半疑でまた歩いていたけれど、確かに道がループしなくなっていた。
音もいつの間にか聞こえていて、セミが鳴いていた。
家に帰るとそんなに時間は経っておらず一安心したけれど、転んで傷だらけで戻って来たことと、今回は良かったとはいえ、知らないおじいさんに簡単に付いて行ったことを母に怒られた。
次の日から夏休みに入り、親が持たせてくれたお礼を自転車のかごに乗せて昨日助けてくれたおじいさんの家に行ってみると、どう見ても数年は人が住んでいないような空き家で、昨日は無かったはずの蔦に家が覆われ放題だった。
(終)