山の中に突然現れる池
俺の地元の山中には、『突然現れる池』があった。
小学生の頃に父と見に行った覚えがある。
登山道から外れて少し行くと、木々の中に巨大な水溜まりが出来ていた。
もう20年以上前の話だ。
最近、地元に帰った時に叔父と話していたら、会話の中でその山の名前が出て思い出した。
気持ち悪い話もあるみたいだから
それで叔父に、「昔、あの池を見に行った」と言ったら変な顔をされた。
「新聞にも出ていて、おやじと一緒に行ったんだ」
そう母に聞いても知らないと言う。
兄や妹に言っても分からない。
父はもう他界している。
何か変だと思い、同級生に会う事にした。
ちょうどお祭りの日だった。
夜、騒がしい詰め所に行くと、懐かしい顔が何人もいた。
とりあえず酒を飲まされ、近況等を語った。
昔のあだ名で呼ばれて、なんだか恥ずかしかった。
少し酔ってきた頃、例の山の事を聞いてみた。
「そういえば、そんなのあったあった」
「今は現れないの?」
「全然聞かねえ」
その後、区長さんに酒を注ぎに行って話してみた。
「あれか。昔は何年か毎に現れるなんて言われてたもんだ。気候も変わったからな。こんなに暑くなかったろう」と。
明日、登ってみようと思った。
翌日、朝食を食べながら、家族に池の話は夢ではなかったと話した。
それに、昨日は居なかった祖母は池を知っていた。
これから一人で行って来ると言うと、「止めろ危ない」と。
友人と行く事にして許してもらったが、もちろん一人で行った。
登山口の駐車場には俺の車しかない。
その日は曇っていて、登山道は暗い。
急な斜面を登ると、汗で背中が冷たくなった。
20分ほど登った頃、林の中に猟銃を持った男がいた。
向こうはこちらに気が付いていない様子。
俺はとっさに木の裏に隠れてしまった。
危ないんじゃないか?
こんな所で銃を使っていいのか?
男は藪の奥へ入って行った。
俺は銃が怖くなり、そこで登るのをやめてしまった。
家に戻って「場所がよく分からなかった」と家族に嘘を話した。
祖母は、「無事で良かった。あそこは何だか気持ち悪い話もあるみたいだから」と言った。
気持ち悪い話については、そこは俺の思い出の場所でもあるので詳しくは聞かなかった。
その夜、あの山の夢を見た。
暗い林の中に池がある。
白いワイシャツを着た父が隣にいる。
池を眺めている俺達を、後ろの木の裏で猟銃を持った男が見ている。
そんな夢を見て、夜中に目が覚めた。
(終)