旦那の同僚が語った不可解な雑談話
これは、旦那から聞いた話。
その日、旦那はかなり仕事が溜まっていて、深夜まで残業をしていた。
その時に同じフロアに居たのは、同僚の松下君のみ。※名前は仮名
二人で雑談しながら仕事をしていたが、フッと話題が途切れ、なんとなくそのまま二人とも無言で仕事をしていた。
しばらくして、松下君が突然ポツリとこう切り出した。
「人間が一番怖いよね」
何かと思ってその続きを待っていると、松下君は自分の学生時代の体験を話し始めた。
様子が少し変だった同僚
ちょうど15年前、大学生だった松下君は街中で一人の女の子をナンパしたそうだ。
自分のアパートの部屋に女の子を泊まらせたが、次の日はバイトだった松下君。
翌朝、時間が早く、女の子がまだ眠そうだったので、女の子に部屋の鍵を渡して「ポストに鍵を入れて勝手に帰っていいよ」と言って部屋を出た。
その時は「別に盗られるような物もないし」と、のんきに考えていたそうだ。
バイトが終わり、友人たちと夕食を食べてアパートに帰って来たのは、もう夜の11時を過ぎた頃だった。
ポストを覗くと、有るであろうはずの鍵が無い。
まさか・・・と思いながら玄関のノブを回すと、すんなりとドアが開いた。
中を見渡したところ、電気もつけず真っ暗な部屋の中、何も映っていないテレビの前にペタンと座った女の子の姿があった。
玄関外の廊下からの明かりと、窓の外からの明かりで見えた。
女の子はテレビの画面の方を向いたまま、ただぼんやりとしていたそうだ。
気味悪くなった松下君は、すぐに出て行かせようとしたが、女の子が泣きじゃくり、「あと1日だけ泊めてほしい。明日になれば必ず帰るから」と懇願してきた。
松下君は何故かそれ以上強く言えず、結局その日も泊めてしまった。
次の日、大学から帰った松下君が見たのは昨日と同じ光景だった。
さすがに松下君も気味悪さ半分、怒り半分で、力ずくで部屋から追い出そうとしたが、女の子はどこからか持ち出した包丁を手に暴れだした。
・・・と、そこまで話した松下君は仕事が終わったようで、突然話をやめてサッサと帰り支度を始め、「それじゃ」と帰ってしまった。
旦那は呆気に取られつつも、その話が結局どうなったのかが気になった。
だが、松下君の様子が少し変だったこともあり、それに気味悪くもあって聞きそびれてしまった。
(話の途中で旦那が納得いかない箇所で質問をはさんでも、「ああ・・・」とか「うん・・・まぁ・・・」とか、何だか要領の得ないような受け答えだったらしい)
それから間もなくして、松下君は会社を辞めてしまった。
あれからもう5年も経つのに、旦那はこの季節になると決まってあの日の事を思い出すらしい。
そして今でも不可解なのは、同僚として何年も色々な話をしてきたのに、なぜ突然脈絡もなく、しかもあんな中途半端な話をし始めたのか。
また、その話をしている時の松下君は、旦那に話しているという感じではなく、まるで独り言を呟いているような感じだったこと。
そして、『15年前が大学生』というのは、その話をした当時28歳だった松下君では年齢がどうしても合わないこと、だそうだ。
(終)