「足を揃えよ。右から歩け、早う」
これは、私が幼い頃に体験した不思議な話。
家族で大叔母の田舎に行った時のこと。
湖の横道を兄(12歳)を真ん中にして、私(7歳)と従姉妹(3才)の3人で手を繋いで歩いていた。
従姉妹は幼稚園での歌を歌い、私と兄は笑っていた。
よう助かったのう
しばらくすると、湖の上を毛布を細長く丸めたような物体がプカプカ浮いていた。
洗濯機で絡まった服のように白っぽいプカプカが、私の左側の視界に入っていた。
何あれ?と言おうとすると、兄の真後ろに『誰か』が立っている気配がする。
次の瞬間、3人共が急に動けなくなり、その誰かが兄に話しかけた。
「兄者か?」
横で兄が、がっくん、と不自然に頷くと、その誰かは「足を揃えよ。右から歩け、早う」と言ったように聞こえた。
兄がまた頷くと、まるで二人三脚のような状態で足が勝手に動き出し、そのまま3人で家に着いた。
そして何故かその出来事の話は、それっきりしないで時は過ぎた。
私は大人になり、親戚が集まった時にふと思い出して、「あの時さ・・・」と話し始めると周りが凄く驚き、「よう助かったのう」と言われた。
聞けば、あの時に見た毛布の塊は、何かマズイ霊的なものだったらしい。
兄にも当時のことを聞きたいが、兄はお坊さんになってしまい、今は比○山にいるので迷っている。
あの時の誰かは、私たちが二人三脚で歩き出すとタタッと足音を立てて逆に走り去ってしまった。
生きた人だと思っていたが、よく考えれば急に背後に立つのは無理であり、勝手に足が動き出したのも、その誰かの力のような気がする。
ただ、足並みを揃えなければいけなかった意味は今でも分からない。
(終)