30年近くも挨拶をする仲のおばあさん

駐輪場

 

これは、あるおばあさんと犬の話。

 

中学生の頃から私学に通い始めた俺は、いつも電車で通学していた。

 

家から最寄の駅に行く時、その駅の駐輪場で毎日、白と黒のパピヨン犬をまるで赤ん坊のように抱きかかえたおばあさんを見かけていた。

 

最初の頃は、「あの人、毎日ここに来てるんだなぁ」としか思っていなかったが、どちらの方から言い出したのか忘れたが、次第に互いに挨拶するようになった。

 

エスカレーター式の学校だったので、高校も同じ所へ通うように。

 

大学も自宅から通える所へ進学し、就職後も自宅から会社へ通った。

 

月日は流れ、俺は結婚したが、そのまま自宅で親と同居して、子供も生まれ、やがて子供も高校に進学する歳になった。

 

その長い年月の間も、俺は今までと同じような時間に最寄りの駅に向かい、その犬を抱えたおばあさんと顔を合わせ、挨拶をし、電車に乗っていた。

 

怖さは感じなかったが、ふいにそのおばあさんのことが不思議に思えるようになった。

 

なぜなら、もうかれこれ30年近く顔を合わしているのに歳をとっていない。

 

しかも、おばあさんだけではなく、犬も30年近く同じ容姿のまま。

 

そのおばあさんとは今でも挨拶を交わす仲。

 

毎日会う人だと歳をとっていくのになかなか気づかないが、犬はやっぱり寿命を考えるとおかしいなとは思っている。

 

それに、知らずのうちに容姿がそっくりな2代目になったとも思えない。

 

余談になるが、俺の親もそのおばあさんと犬の名前まで知っていた。

 

(終)

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