天国にいる彼が私を元気づけるために
これは怖い話というより、ちょっと不思議な話かもしれません。
私が以前付き合っていた彼は、3年前に急性白血病でこの世を去りました。
病気の進行が早かった為に治療は無菌室で行い、また外部との接触も遮断され、会えない日が続きました。
薬の副作用が日に日に彼の体力を消耗させていくようでした。
俺、いつか犬を飼いたいんだよ
これは、ある日の夢です。
広くて明るい真っ白な病室のベッドに彼が横たわっています。
そこはもう無菌室ではなく、静かで誰もいない病室です。
私はベッド脇に座って眠っている彼の手を取り、自分の膝の上に乗せた洗面器の水で彼の手をさらさらと洗っています。
彼は白いパジャマを着ていて、手を洗われていても終始目を開けることはありませんでした。
夢の中ではとても穏やかな気持ちでいられたのに、ハッと目を覚ますと私は泣いていました。
しばらくして彼の訃報が届きました。
彼の死後、私はしばらく気持ちが滅入って、鬱々と過ごす日が続きました。
気力もなく、暇さえあれば彼との思い出をたぐってばかりでした。
ある日、『俺、いつか犬を飼いたいんだよ』と言っていた彼の言葉を思い出しました。(でも彼はペット不可のマンションに住んでいたので、その夢が叶いませんでした)
私は動物好きでしたし、犬を家族の一員に迎えることで彼の夢を共有したかったのかもしれません。
親に相談しても特に反対されませんでした。(うちの親は、彼を亡くした悲しみから一刻でも早く私が立ち直ることを犬に託していたようです)
動物管理センターやいくつかのツテを辿り、オスの子犬と出会いました。
沢山の子犬の中から第一印象で「この子!」と決めましたが、後で聞いたところによると、その子犬の誕生日が奇しくも彼が亡くなった日と一致していました。
今では、天国にいる彼が私を元気づける為に子犬と巡り合わせてくれたのかなあと思いながら、毎年愛犬の誕生日を祝っています。
(終)