炭焼き小屋で起きた二組の夫婦の怪異話

小屋

 

これは、時と場所を隔てて聞いた『炭焼き』にまつわる二つの怪異話です。※炭焼きとは、木炭づくりのこと。

 

かつて、山奥の小屋に泊り込んで炭を焼く杣人(そまびと)が全国各地にいました。

 

専門の職人ともなると、籠りっきりで炭を焼くこともあります。

 

一家の主がそんな風に炭焼きを生業とする場合、出来上がった炭を里へ運ぶのは女房の役目でした。

 

朝早くに食事などを持って小屋まで登り、夕方には炭を担いで戻ってくる。

 

かなりの重労働ですが、短い時間でも夫に会って顔を見ることができる。

 

それを楽しみに、せっせと山に入る女房も多かったようです。

 

そんな生活を送っていた二組の夫婦に、怪異な出来事が起こりました。

 

●一つ目は兵庫県で聞いた話

 

ある日、小屋へ向かった杣人の女房が夜になっても帰って来ませんでした。

 

不安を感じた子供たちが隣家に駆け込んで事情がわかったのですが、すでに夜も更けていたので捜索は明朝ということになりました。

 

翌朝、数名の男たちが女房を探すために山へ入りました。

 

炭焼き小屋まで登った村人たちがまず見つけたものは、窯(かま)の周りの地面を赤黒く濡らした大量の血痕でした。

 

女房と炭を焼いているはずの夫の姿はどこにも見当たらず、大声で名を呼んでも返事がありません。

 

その時、小屋の近くに生えている大木の梢(こずえ=樹木の先の部分)から、ガサガサッと枝の擦れるような音が聞こえてきました。

 

村人たちが音の方向を見上げると、大きな木の梢に人が二人、引っかかっているのが見えました。

 

おそらくは件の夫婦であろうその人影は、枝の上で横になってダラリと腕を垂らしたまま、どう見ても生きているようには見えません。

 

すると、そのうちの一体がもぞりと動いたかと思うと、おもむろに声を上げ始めました。

 

「オマエ~・・・オマエ~・・・」

 

そして誰かに呼びかけるように体を起こしたかと思うと、高い場所の枝から無造作に身を投げ、どさりと地面まで落ちてきました。

 

駆け寄って見てみると、体は地に伏せているにもかかわらず、頭が180度反転していて、空を向いたその顔は、山に篭って炭を焼いていた男のものでした。

 

やがて、その男は腕や足をバラバラに動かしながら、存外な速さで村人たちの方へ這い寄って来ました。

 

「オマエ~・・・オマエ~・・・」

 

恐怖に駆られ、我先にと山を駆け下りた男たちの後ろから、「オマエーオマエーオマエーオマエー」と機械のように繰り返す声が追い駆けて来ます。

 

後に、鉄砲を持った男たちが小屋のところまで登って来た頃には、地面を這っていた男や木の上の亡骸は姿を消しており、夫婦の行方もふっつりと絶えました。

 

●二つ目は山形県で聞いた話

 

ある朝、女房が夫の詰めている炭焼き小屋に行ってみると、炭窯の前で夫が鹿の死体に頭を突っ込んでいるところに出くわしました。

 

驚いた女房は声をかけたものの、血まみれの口いっぱいに臓物を頬張り虚ろな目をしてこちらを見やる夫が、正気ではないことは一目瞭然です。

 

慌ててその場を逃げ出した女房を追いかけ、夫は山を下りて里に入りましたが、人々が松明を持って集まって来ると、火を恐れたのか再び山へと戻って行きました。

 

それ以来、夫は行方不明となり、女房は出家をして尼寺に入ったということです。

 

あとがき

ここからは私の蛇足です。

 

私も家業の関係で、かつては炭を焼いていたのですが、正直なところあまり好きな仕事ではありませんでした。

 

父から炭焼きの最中に祖父が奇怪な死を遂げたという話を聞いていたこともあって、炭焼きは怪異を呼び込みやすいのではないか?という考えを拭いきれなかったのです。

 

炭焼きは、時に夜を徹して行わなければならない作業です。

 

しかも、木が燃える音、煙の色や臭い、窯の温度などで中の状態を逐一モニターし続けなければならないので、長時間にわたって感覚を研ぎ澄ませておく必要があります。

 

ですが、作業としては静的で、伐採などに比べると変化に乏しいため、深と静まり返った真っ暗闇の山中で独り炭を焼いていると、自然と感受性の鋭敏な精神状態に陥りがちです。

 

私は通いで焼いていましたから、そんな状態は長続きしませんでしたが、それでも奇妙な音を聞いたり気配を感じたりしたことが多々ありました。

 

ましてや、何十日も泊まり込みで炭を焼く職人の中には、精神に異常をきたす人がいたのかもしれません。

 

あるいは、山の魑魅魍魎に魅入られてしまう人も・・・。

 

魑魅魍魎(ちみもうりょう)|参考

山の怪物や川の怪物。様々な化け物、妖怪変化。魑魅は山の怪、魍魎は川の怪であり、一般には山河すべての怪として魑魅魍魎の名で用いられることが多い。(Wikipediaより引用)

 

我ながら幼稚な考えだと思っていましたが、この話を聞いた時には、自分の考えが案外的を射ているのではないか、と思った次第です。

 

また、次のような要素も気になりました。

 

・何かに取り憑かれ、獣のような行動をとる

・死んでいるはずなのに動く

・火を怖がる

・獲物を高い場所に置く

・尼寺に入り、髪を切って坊主になる

 

(終)

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