林道で見かけた女の人とプレハブ小屋

 

これは、僕が小学生の時の話。

 

友達と自転車で、山の中の細い林道を遊びで走っていた時のこと。

 

しばらく走っていると、先の方に女の人が歩いているのが見えた。

 

その女の人は登山やハイキングをしているようではなく、スカートを履いたごく普通の恰好で、片手には買い物カゴのようなものを持っているだけだった。

 

まさかこんな山の中に人がいるなんて思っていなかったので少しビックリしたのと、人が歩いていると自転車が通れないほど細い道だったので、自転車を停めて友達と何となくその女の人が先を歩いているのを見ていた。

 

するとその女の人、やがて林道から外れて草がボーボーに生えた山の斜面を登って行った。

 

「何であんな所に行くんだ？」

 

俄然興味が湧き、その女の人が登った辺りまで自転車を走らせると、斜面の少し上の方に一軒の“プレハブ小屋”のようなものが建っていて、ちょうど女の人がその中に入って行くのが見えた。

 

「こんな辺鄙な所に住んでいる人もいるんだね～」と感心して、その日はそのまま山を下りて解散する。

 

それから一月ほど後、同じように林道を自転車で走っているうちに、女の人とすれ違った辺りに来たことに気がついた。

 

「そういえばここら辺だったなあ･･･」と、ふと斜面の上を見ると、あの時に女の人が入って行ったプレハブ小屋が目に留まった。

 

そうしたら友達の一人が、「あんな所にある小屋にホントに住んでるのか？ちょっと覗いてみないか？」と言い出した。

 

最初は「止めとけ」、「行かない」と言っていた奴らも好奇心には勝てず、みんなで自転車を停めて斜面を登り始めた。

 

鬱蒼とした草の斜面を登り切り、小屋の周りの草だらけの場所を抜け、たどり着いた。

 

だけど、小屋の窓がどこも泥と埃で汚れているので中がよく見えない。

 

ぐるっと小屋の周りを回ってみると、反対側に入り口らしき引き戸があった。

 

「もうこのまま帰ろうか？」とヒソヒソ話していると、言い出しっぺの友達が、「道に迷ったってフリして尋ねてみようぜ」と提案した。

 

それにはさっきと違ってみんなが強硬に反対したんだけど、言い合っている間に友達が入り口をノックして、「すいませ～ん」と扉を開けてしまった。

 

ところが、扉を開けた友達が「･･･ええ？」と変な声を上げた。

 

「どうした？どうした？」と、みんなも小屋の中を覗いてみた。

 

すると、中は地面に直接畳が数畳敷いてあり、その上に小さな机が一つ、他には引き出しが全て無いタンスらしきものがあるだけだった。

 

そして何より、小屋の中にも草が生えてたりして、とても人が住んでいるようには見えない。

 

誰からともなく小屋に足を踏み入れてみたけど、やっぱり他には何もなく、草の間の地面に割れた茶碗や紙クズやゴミが見つかるだけだった。

 

だけど、ふと畳の上の机を見ると、何かが置いてあるのに気がついた。

 

それは“写真立て”だった。

 

何の気なしに手にとって見てみると、丸メガネをかけた昔風の男の人の、なぜか妙に新しいモノクロ写真が入っていた。

 

それをみんなで見ていると、何だか言いようのない不気味さを感じて、「やっぱりここ、入っちゃいけない場所だったんじゃないか？」となり、急いで斜面を下りて、自転車を走らせてその場から立ち去った。

 

それからしばらくはそこに近づかないようにしてたんだけど、何年かして「あれ、何だったんだろう？」と思い、一人で出かけてみたことがある。

 

ところが、確かにその場所に行ったはずだけど、あの小屋は跡形もなく消えてしまっていて、どうしても見つけることが出来なかった。

 

（終）