のんびりと煙草をふかし終えたその時
これは大学時代、裏手の山でのんびりと煙草をふかすのが日課だった頃の話。
学生のざわつく声や車道の車の音を遠くに聞いて、木の擦れる音や鳥の声を楽しみながらの一服。
ある日、煙草も吸い終わってふと大学側を見下ろすと、平日の昼間だというのに講内には誰も居なくなっていた。
同時に、ざわつきも車道の音も、鳥の声すらしない。
風は止んで木も揺れない、時間の隙間みたいな感じだった。
しばらく呆けていると、「カァ」という甲高いカラスの鳴き声が上がる。
それを合図にしたのか、せき止めた水が溢れるように一斉に色んな音が耳に飛び込んできて、結局その日は一日中、惚けたようにそこに居た。
その絶望的な静寂と、眩暈(めまい)のするような解放をもう一度味わいたくて、在学中は何度もそこに足を運んだが、同じ体験をすることはなかった。
(終)
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