うちのクラスにそんな子いたっけ?
これは、小6の時に行った日光修学旅行での出来事。
夜に一人だけ眠れなかった僕は、寝ている奴の顔にイタズラをしたり、背中に氷を突っ込んだりして遊んでいた。
しかしすぐに飽きてしまったので、夜のホテル内を探検することに。
地下から順に各フロアを周っていく。
非常灯の明かりだけの廊下や階段を歩いていく。
最初は怖かったが、すぐに慣れて怖さも消えていった。
得意気になって最上階まで上り詰めた時、ふと思い出した。
最上階は女子が泊まっているフロアであることを。
深入りして見つかったら、何を言われるかわかったものではない。
そういうわけで、階段から廊下だけを覗いてすぐに戻ろうと思った。
廊下の奥を見ると、先生たちの部屋は扉が開いており、中から明かりが漏れていた。
笑い声が聞こえるので、どうやら酒盛りでもしているようだ。
向かい側の部屋を見ると、女子が一人立っていた。
壁を背に立っていて、後ろ姿が半分だけ見えた。
髪が長く、キュロットスカートを履いた女子。
違和感は特に感じなかった。
立ち位置から考えて、「ああ、先生に見つかって廊下に立たされてるんだな」と思った。
翌日、夜の探検のことをクラスメイトに話した時、「女子のフロアに行ったのかよ、いやらしいな~」、「夜這いだ~」などとからかわれた。
その話を聞いていた女子も、「サイアク~」などと反応していた。
ムキになった僕は反論した。
「いや、だから部屋には入ってねぇよ!文句言われると思ったから廊下だけ見て引き返したよ!大体、おまえらだって騒いでたんだろ?先生に廊下に立たされてた奴も見たぞ!」
すると、女子たちは不思議そうな顔をした。
「え?何のこと?みんなすぐに寝たからそんな人いないと思うけど?」
立っていた女子について、僕は根掘り葉掘り聞かれた。
そして、女子たちの顔は次第に引きつっていった。
「え?全員パジャマに着替えたからその話はおかしいよ」
「そんな服装で髪が長い人、うちのクラスにいたっけ?」
「えー!やだー!うちの部屋の前じゃん!気持ちわるー!」
収拾がつかなくなったので、先生たちに事情を聞いてみることにした。
ただ、先生たちはこう答えた。
「いや、騒いでる生徒なんて特にいなかったぞ?」
「もし見つけたとしてもだ、真夜中に廊下に立たせたりしないぞ」
「先生たちはずっと扉を開けて談笑してたけど、誰かが立ってたのは見てない」
先生たちも少し青ざめていた。
「うわー幽霊だ!○○は幽霊を見たんだよ!」
「うちの部屋の前だよ…。怖いんだけど…」
状況はさらに混乱してしまった。
その様子を見て、隣のクラスの担任が話し始めた。
「子供の幽霊ってね、寂しがって子供の前に現れることもあるのよ。寂しがり屋なだけで、そんなに害がある幽霊じゃないと思うわよ」
そんな話を聞いて、とりあえずは皆落ち着いた。
確かに、あの時はっきりと見たのだが、彼女が何だったか正しくはわからない。
ただ、壁のシミや置物ではなく、はっきりと人間だと認識できたことだけは間違いない。
見た時は違和感も不自然さも感じなく、ただ生徒が立たされていただけだと思えた。
接触はしていないし、幽霊かどうかはわからない。
そんなことから年月は過ぎたが、このホテルは現存しているので、もし日光に行く際には泊まってみたいと思っている。
もう一度彼女を見ることができるのか?
もし見たら、今度は接触してみるつもりだ。
接触したらどうなるかはわからないが、モヤモヤが解決しそうな気がするから。
(終)