パン屋の夜の不気味な訪問者
これは、今まさに身の上に起きている不気味な話。
うちはパン屋をやっていて、創業50年くらいになるだろうか。
そして今は俺が跡継ぎの候補。
父にケツを叩かれながら修行している。
巷ではパン屋は朝が早いなんて言うが、決して朝ではない。
実際は夜中の2時頃に起きて用意を始める。
最近は生地の仕込みを任されているので、俺一人だけがキッチンに立っている。
そんなある日、1ヶ月前くらいだろうか。
草木も眠る丑三つ時に、店のドアの外に誰かが立っていた。
シャッターを上半分ほど閉めた状態で、下は潜り抜けられる程度だけ開けているのだが、“足だけ”が見える。
不気味な話だが…。
ただ、ソイツは何をするでもなく、気づくといなくなっている。
気になってはいたが、こちらも商売。
営業外の時間に構っている暇はない。
ところが最近、こちらも「アイツ、来てるかな」と気になってしまって。
ついついチラッとドアの方を見てしまう。
それで足があると「今日もか~」なんて、習慣のようになっている。
家族も元気だし、大した事故もしていないし、店もいつもと同じで、特に身の回りに何も起きていない。
そんなこんなで2日前、父に話してみた。
「足が店に来てるぞ」と。
父が「寝ぼけてるのか?」とそれだけ言って終わったが、昨日また生地の仕込みをしている時に、「足、いるかな?」とパッと見てみた。
すると、やっぱり足がいた。
ただ、少し垂れ下がっている髪のようなものも見えた。
アイツは一体何者なのだろうか。
それまでは髪のようなものは見えなかったので、まさか伸びたのだろうか。
はたまた、その時は屈む姿勢にでもなっていたのか。
どちらにしても怖いし、そのうち顔まで見えてしまったら怖いどころではないので、どうにかした方がいいのではと思っているが…。
(終)