深夜に滑り台の上に立っていたスーツ男
これは、散歩中に遭遇した恐怖体験話。
俺は高校生の頃、夜中に街を歩き回るのが趣味だった。
当時住んでいた所は、郊外の住宅街。
夜中の2時から3時ともなれば、出歩いていても警察やら何やらに声をかけられるということは全くなく、煩わしいことを考える必要がないその時間が俺は好きだった。
ある日、いつものように夜の散歩に出かけていると、月に3回程度、近くを通る公園の滑り台の踊り場の上に、グレーのスーツを着たサラリーマン風の男が立っているのを見かけた。
男はこちらから見て斜め後ろを向いており、表情は見えない。
一瞬驚いたが、以前に別の公園で飲みすぎたのかベンチで眠りこけているサラリーマンを見かけたことがあったので、その類だろうと思い、その時は特に気に留めずに散歩を続けた。
30分程して、そろそろ帰ろうと思い立つ。
家まで帰るには、行きに通った公園の反対の脇を通る必要がある。
少々眠気を感じながら再び公園の前まで着くと、先程のサラリーマンがまだ滑り台の上で立っていた。
行きで通りかかった時から40分は経過している。
さすがに驚き、足を止めてそのサラリーマンをまじまじと見てしまった。
男は行きの時と同じように斜め後ろを向いて立っており、身じろぎ一つしなかった。
背中に冷たいものがじわりと流れ出した。
早く家に帰ろうと思い立ち、公園の脇を通り過ぎた辺りまで歩いた時、あることに気が付いた。
俺は、行きの時とは反対の道路から歩いて来た。
それなのに何故、男が行きと同じように斜め後ろを向いて立っているのだろうか?
全身の毛穴が開いていくのを感じた。
もうここから走って去った方がいい、そう思っているのに俺は公園の方を振り向いてしまった。
男は滑り台の上で斜め後ろを向いて立っていた。
先程と同じように。
俺はたまらず走ってその場から逃げた。
再び振り向く勇気は俺にはなかった。
もし振り向いて、男がこちらを見ていたら・・・。
そんな状況は絶対に考えたくなかった。
もしかしたら幽霊の類ではなかったのかもしれない。
酔っ払いの悪ふざけか何かだったのかもしれない。
ただ俺は、夜中の散歩でそれ以降、その公園の近くを通ることは二度としていない。
(終)