厚生省からの訪問者

ドン、ドン、ドン!

 

俺はボリボリ頭をかき、

眠り眼のまま玄関先に向かう。

 

不快感を露にしながら

ドアを開けると、

 

そこには黒縁眼鏡に

ペッタリとした、

 

ポマード臭漂う七三に分けた

男が立っていた。

 

面識はない。

 

新聞の勧誘か?

 

すると、

男は口を開いた。

 

「どうも。

私、厚生省から参りました。

 

突然の訪問で

ご迷惑おかけします。

 

Aさんは国民年金に

未加入ですよね?」

 

何だよ国民年金て。

 

俺、学生だぜ。

 

「はぁ・・・、

 

まだ学生なんで払わないでも

いいんじゃないですか?」

 

「いえいえ、

 

20歳を過ぎたら出来れば

収めてもらいたいのです。

 

国民の義務ですから」

 

「任意って意味ですか?」

 

「まあ、そうですね」

 

「折角ですが、

就職してから払います」

 

「そう言って社会人になってからも

未加入者が増加してるんですよ」

 

その言葉にムッときた。

 

「あんた、借金取りか?

 

その社会人とこでも行きやがれ。

 

学生に払う義務なんて

ねぇんだよ」

 

「国からの保障も獲ら・・・   」

 

男の言葉が終わる前に

ドアを閉めた。

 

その夜、

俺は通り魔に襲われた。

 

命に別状はないが、

 

金属バットで殴打された

箇所が悪く、

 

この先、車椅子を

手放すことはないだろう。

 

知人の紹介で、

 

重度障害者年金の

手続きに向かうと、

 

「すいませんが、

Aさんは受けられませんね。

 

20歳を超えて国民年金に

加入していないと、

 

国は補償する義務は

ないんですよ」

 

黒縁眼鏡にポマードで撫で付けた、

七三の男は冷笑するように言った。

 

ポマード臭が鼻につく。

 

そう言えば、

 

俺をこんな身にした犯人も

捕まってはいない。

 

手掛かりは現場に投げ捨てられていた

金属バットだけだが、

 

どこぞの学校から盗まれた物らしく、

 

犯人に結びつけるには

乏しいとのことだった。

 

ただ、

 

学校の私物にしては似つかわない

ポマード臭がしていた、

 

という刑事の話を、

 

男の匂いで将来の不安と共に

思い出していた。

 

(終)

解説

簡単すぎるので分かるでしょうが、

 

年金加入の勧誘に来た男が犯人、

というオチである。

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