四面堂
俺の住んでる町内では、
大人はほとんど知ってるって話があってさ。
四面堂って言われてる山沿いの道なんだけど、
雨の日に白いセダンで通ると、ずぶ濡れの女が出るらしい。
それで、ある雨の日に近所のおっさんが、
「家まで送ろうか?」って言ったら、
女はうなずいて後部座席に乗り込んだのね。
住所を聞いたら隣町だったんだけど、
今さら仕方ないと思って、言われた住所まで送ったらしいんだ。
いざ目的地に着いて、後部座席を見たら女は居なくて、
座っていたシートだけが、ずぶ濡れになっていた。
おっさんは、勝手に降りて家に入ったのか?礼儀知らずな女だなって怒って、
その家のチャイムを鳴らした。
玄関から出てきた人に事情を話すと、
「それは多分、死んだうちの娘です」
って言われたんだって。
時折あなたと同じ事を言う人が来るって、
その人は言ってたらしい。
怖くなったおっさんは、
足早に立ち去ったらしい。
後日、おっさんの友人も同じ経験をして、
これはガチだろうって噂が広まっていったらしいんだ。
その後も、目撃が多発したらしくて、
町内会が女の親と相談して、ほこらを建てる事にした。
それからは、ピタリと目撃報告もなくなったらしい。
ほこらが建てられたのは、今から30年くらい前らしいんだけど、
噂だけは残って、俺たちの世代も大体は知っている。
どこにでもありそうな話だし、大して怖くも無い話で申し訳ないんだけど、
死んでからも家に帰りたいって思いで車に乗ったのかと思うと、
すごく悲しいなって思うよ。
ちなみに、今でもそのほこらは残っていて、
一度、某雑誌の心霊スポットリストに載ってた。
(終)