汚水管に居着くカツラ
これは、後輩が体験した奇妙な話。
大学生の時分、彼は警備会社でバイトをしていた。
あるデパートで物産展の警備に駆り出された時のこと。
彼の持ち場に近い仮設厨房で小さな騒ぎが持ち上がった。
洗い物をしていたシンクが詰まってしまったというのだ。
下から這い上がってきた
待つほどもなく設備担当の人が来て、仮設の汚水管をバラし始めた。
シンクからパイプシャフトまでの間に詰まり物があるらしく、中を掃除しようという腹だったらしい。
管が硬い音を立てて外れた瞬間、端から何かがズルッとこぼれ出た。
黒くて長い髪の毛がびっしり。
その場に居合わせた者が仰天していると、髪の毛はあっという間に管の中へ吸い込まれて姿を消した。
ただ一人落ち着いた様子の設備担当者は、元通りに管を繋ぐと何事もなかったように水を流してみた。
問題なく流れていく。
管詰まりは解決したようだ。
平然と去る担当者以外は皆どうにも釈然としない面持ちだったが、物産展の開業中はとにかく忙しい。
誰ともなく仕事に戻り始め、すぐにその騒ぎは忘れられた。
その晩、仕事が終わってから警備会社に戻った折に、この話を上司にしてみた。
「なんで仮設の管に、あんな大量の髪の毛が入ったんでしょうね?」
そのデパートで長く仕事をしている上司は、驚く素振りも見せずに言う。
「それ、多分シンクから流したんじゃなくて、下から這い上がってきたんだよ。あの近辺の汚水管には昔からカツラが居着いているんだ」
「へ?カツラ?」
驚いて、そう問い返す。
「いや、本当にカツラかどうかは誰も知らないが。でもあそこで下水が詰まると、いつもそのカツラみたいなモノが見つかるんだ。サッとすぐに逃げ出すから捕まえられたことはないらしいがな。以前に専用の掃除ブラシを奥まで突っ込んでみたところ、みっしりと黒髪が絡みついて引き出されてきたそうだ」
別の上司が割って入る。
「あの通りの地下共同溝に入っている時にさ、時々ゴツンゴツンって、汚水管の中を移動する音を聞いた奴なら結構いるぞ。勾配を遡っていたって話もある。まぁ得体の知れないモノには極力関わり合いにならんことだ」
上司二人はウンウンと頷いていた。
後輩は、何かイヤだなぁと思ったが口には出さず、卒業するまでその会社にお世話になり続けたのだという。
(終)