バスの中でとある怪談を語り聞かせたせいで

牛

 

この世には『牛の首』という恐ろしい怪談がある。

 

この話は江戸時代にはすでに知られていたようで、寛永年間に書かれた庶民の日記にすでにその名は出ている。

 

とはいえ、そこに記されているのは『牛の首』という怪談の名前だけで、話の内容は『今日、牛の首という怪談を聞いたが、あまりにも恐ろしい話なのでここには書けない』として語られてはいない。

 

このように、文献にはっきりとした形で残ることはなかった『牛の首』だが、その物語は口授で今日まで語り継がれている。

 

だが、私はその話をここに記すつもりはない。

 

あまりに恐ろしい話なので思い出したくないのだ。

 

その代わりに、『牛の首』を知っている数少ない人物の一人の身に起きたエピソードを語ってみようと思う。

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もうその話しはやめて!

その人物は小学校の教師である。

 

彼は学校の遠足の時に、バスの中で怪談を子供たちに語り聞かせていた。

 

普段は騒々しい子供たちも今日は真剣に彼の話に耳をそばだて、本気で怖がっている。

 

これに気をよくした彼は、最後にとっておきの怪談である『牛の首』を披露することにした。

 

彼は声を潜めると、子供たちにこう言った。

 

「これから話すのは『牛の首』という怪談だ。牛の首とは・・・」

 

ところが、彼が話を始めた途端にバスの中に異変が起きる。

 

子供たちが物語のあまりの恐ろしさに怯え、口々に「先生、もうその話しはやめて!」と訴えだしたのだ。

 

ある子供は真っ青になりながら耳を塞ぎ、別の子供は大声を上げて泣き叫ぶ。

 

だが、それでも彼は話をやめようとしない。

 

彼の目は虚ろで、まるで何かに取り憑かれたかのようであった。

 

しばらくすると、バスが急に停止した。

 

異変を感じて正気に戻った彼が運転席を見ると、バスの運転手が脂汗を流しながらブルブルと震えている。

 

おそらくこれ以上は運転を続けられないと思い、車を止めたのであろう。

 

さらに辺りを見回すと、生徒たちは皆口から泡を吹いて失神していた。

 

それ以来、彼が『牛の首』について何かを話す事はなかったという。

 

※参考|牛の首

古くから伝わる都市伝説の一つである。『牛の首』というとても恐ろしい怪談があり、これを聞いた者は恐怖のあまり身震いが止まらず、三日と経たずに死んでしまう。怪談の作者は多くの死者が出たことを悔い・・・(Wikipediaより引用)

 

怪談『牛の首』の由来とされている話

※以下の閲覧は自己責任にてお願いします

 

戦前のある村での話だそうです。

 

その村には森と川を挟んだところに隣村がありました。(仮に「ある村」をA村、「隣村」をB村としておきます)

 

B村はいわゆる部落差別を受けていた村で、A村の人間はB村を異常に忌み嫌っていました。

 

ある朝、A村で事件が起きました。

 

村の牛が1頭、死体で発見されたのですが、その牛の死体がなんとも奇妙なもので、頭が切断され消えていたのです。

 

その切り口はズタズタで、しかし獣に食い千切られたという感じでもなく、切れ味の悪い刃物で何度も何度も切りつけ引き千切られたといった感じでした。

 

気味が悪いということで、その牛の死体はすぐに焼かれました。

 

しかし、首のない牛の死体は、その1頭では終わりませんでした。

 

その後も次々と村の牛が殺され、その死体はどれも頭がなかったのです。

 

普段からB村に不信感を抱いていたA村の人々は、その奇妙な牛殺しを「B村のやつらの仕業に違いない」と噂し、B村を責めたてました。

 

しかし同じ頃、B村でも事件が起きていました。

 

村の若い女が次々と行方不明になっていたのです。

 

いつもA村の人々から酷い嫌がらせを受けていたB村の人々は、この謎の神隠しも「A村のやつらがさらっていったのに違いない」と噂し、A村を憎みました。

 

そうしてお互い、村で起きた事件を相手の村のせいにして、二つの村はそれまで以上に疑い合い、睨み合い、憎しみ合いました。

 

しかし、その二つの事件は、実は一つだったのです。

 

ある晩、村境の川に架かった橋で、B村の村人たちが見張りをしていました。

 

こんな事件があったので、4人ずつ交代で見張りをつけることにしたのです。

 

夜も更けてきた頃、A村の方から誰かがふらふらと歩いてきます。

 

見張りの男たちは闇に目を凝らしました。

 

そして橋の向こう側まで来たその姿を見て、腰を抜かしました。

 

それは全裸の男でした。

 

その男は興奮した様子で性器を勃起させています。

 

しかしなにより驚いたのは、その男の頭は人間のそれではなく、牛の頭だったのです。

 

牛頭の男は見張りに気付き、森の中へ逃げ込みました。

 

牛頭の男は、A村でも牛の番をしていた村人に目撃されていました。

 

その牛頭の男こそ、二つの事件の犯人に違いないと、A村とB村の人々は牛頭の男を狩り出す為に森を探索しました。

 

結局、牛頭の男は捕まりませんでした。

 

いえ、実際には捕まっていました。

 

しかし、男を捕まえたA村の人々は彼を隠し、みんな口を揃えて「そんな男は存在しなかった」と言い出したのです。

 

A村の人々のその奇妙な行動には理由がありました。

 

A村の人々は牛頭の男を捕まえました。

 

その男は実際に牛頭なのではなく、牛の頭の生皮を被った男でした。

 

A村の人々は男の頭から牛の皮を脱がせ、その男の顔を見て驚きました。

 

その男はA村の権力者の息子だったのです。

 

この男は生まれつき、知的障害がありました。

 

歳も、もう30歳近いのですが、毎日村をフラフラしているだけの男でした。

 

村の権力者である父親がやってきて問い詰めましたが、「さんこにしいな。ほたえるな。わえおとろしい。あたまあらうのおとろしい。いね。いね」と訳の分からないことばかり言って要領を得ません。

 

そこで男がよく遊んでいた父親の所有している山を調べると、女の死体と牛の首がいくつも見つかりました。

 

異常だったのは、女の死体の首は切り取られ、そこに牛の首がくっ付いていたのです。

 

男はB村から女をさらい、女の首を切り取って牛の首とすげ替え、その牛頭の女の死体と交わっていたのです。

 

権力者である父親は、息子がやったことが外に漏れるのを恐れ、山で見つかった死体を燃やし、A村の村人に口封じをし、村に駐在する警官にも金を渡して黙らせました。

 

そして息子を家の土蔵に閉じ込め、その存在を世間から消し去ったのです。

 

しかし、村の女たちが行方不明のままのB村の人々は黙っていません。

 

特にあの夜、実際に牛頭の男を見た見張りの4人は「牛頭の男など存在しなかった」と言われては納得するはずがありません。

 

村人みんなで相談して、その4人が警察へ抗議に行くことにしました。

 

次の日、川の橋に4人の生首と4頭の牛の生首が並べられました。

 

A村の人々は真実が暴露されるのを恐れ、B村を出た4人を捕らえ、真実を知っているにも関わらず、B村の4人に全ての罪を被せ、私刑(リンチ)し、見せしめに4人の首をはね、晒し首にしたのです。

 

一緒に牛の生首を並べたのには、「4人が牛殺しの犯人である」という意味(もちろんデマカセではあるが)と、「真実を口外すれば同じ目にあうぞ」という脅しの意味がありました。

 

この見せしめの効果は大きく、B村の人々はもちろん、A村の人々自身も「この出来事を人に話せば殺される」と恐れ、あまりの恐怖にこの事件については誰も一言も話そうとはしなくなりました。

 

二つの村の間で起きたこの出来事は、全て村人たちの記憶の奥深くに隠され、故意に忘れさられ、土蔵に閉じ込められた男と一緒にその存在自体を無にされたのです。

 

(終)

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One Response to “バスの中でとある怪談を語り聞かせたせいで”

  1. とおりすがり より:

    ん・・?
    寛永年間に書かれた庶民の日記にすでにその名は出ている
    のに、話のもとになったとされるのが「戦前」?
    まぁある意味、戦前、なのか?

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