森の奥でぶらぶらと揺れていた黒い影

森林

 

これは、知り合いの体験話。

 

彼は子供の頃、実家の裏山で「不気味なものを見た」という。

 

風呂の焚き付けにする木っ端を拾い集めている時のこと。

 

普段足を踏み入れない森の奥に、何かぶらぶらと揺れる黒い影が見えた。

 

彼のランドセルくらいの大きさだ。

 

何だろう?と、側に近寄ってみた。

 

奇妙なものが木にぶら下げられている。

 

それは、腹を掻っ捌かれ、臓物を抜かれた『小動物の死骸』だった。

 

頭は落とされている。

 

見たところ、狸のようだ。

 

慌てて一緒に薪集めをしていたお祖父さんを呼びに行ったが、引き返して来ると既に死骸は消え失せていた。

 

話を聞いたお祖父さんは渋い顔。

 

聞けば、“猿神の仕業”なのだという。

 

滅多に出ないのだが、件のように捌かれた死骸を見つけると、里ではしばらく山に入るのを止めるのだと。

 

それを聞いて思わず、「人間も捌かれたことがあるの?」と尋ねてしまう。

 

お祖父さんの答えは、「さぁて、それは聞いたことがないな」ということだったが。

 

以降、彼はしばらく一人で山に入れなかったそうだ。

 

(終)

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