蛇殺しと呼ばれた祖父とその孫の今
これは、知り合いの加藤さんの話。※名前は仮名
加藤さんの祖父は、近所でも有名な嫌われ者だった。
加藤家は地元の名家で、傲慢な性格も嫌われる原因ではあったが、何よりの理由は彼の悪癖にあった。
彼は地元では『蛇殺し』と呼ばれ、その名のとおり蛇を殺しまくっていた。
幾つもある持ち山を毎日のように順繰りに渡り歩き、植木の剪定に使う大きな裁ちばさみでブツンブツンとメッタ斬りにしていた、というから穏やかな話ではない。
加藤家の山には蛇がいないというのが地元の語り草で、「いつか祟りに遭う」と噂されていた。
しかし、加藤さんの祖父は90歳近くまで病気知らずで、眠るように安らかに息を引き取った。
代替わりした加藤さんの父は温厚な性格で、集落の人々からの信望も厚かった。
しかし、高校生の息子が新しい噂のタネとなり、またも集落を騒がすようになった。
祖父と同じく、蛇を殺しに山を回るようになったのだ。
私「息子って?」
加藤「それ、俺のことだよ」
私「え?」
加藤「口の悪い奴は変わり者の隔世遺伝なんて言うけどな」
祖父の死後、眠る加藤さんの周りを毎日のように蛇が這い回るようになったという。
最初は幻覚だと思って気でも違ったかとも思ったそうだが、蛇は日毎に増え、噛まれた歯型も残ったという。
加藤「殺した数だけ減るんだ。爺さんも悩んでたのかな」
加藤さん曰く、生前は嫌いだった偏屈者の祖父が、もしかすると誰にも打ち明けることもなく苦しんでいたかと思うと不憫に感じたという。
私「お父さんは?」
加藤「親父は婿養子だからか平気だったみたい」
私「今も殺してるんですか?」
加藤「今じゃ俺が『蛇殺し』って呼ばれてるよ」
ただ、加藤さんの唯一の救いは子供がいないことだそうだ。
自分に架せられた因縁を諦めながらも、原因くらいは知りたいと思って情報を集めているという。
そういうわけで、様々な人から怖い話を聞き漁っている私にも話してくれたのだろう。
何か情報が入り次第、連絡を取り合おうと約束をして話は終わった。
(終)