副作用として幽体離脱してしまう薬
これは、知り合いが体験した不思議な話。
アメリカでインディアンの居留地にステイしていた時、腹痛に襲われたという。
とんでもない激痛で身体を動かすことも適わなくなり、危篤状態にまでなった。
だが、現地の呪医が処方してくれた薬が劇的に効き、無事一命を取り留めたそうだ。
薬が効いている間は体中の感覚がなくなり、同時に痛みも感じなくなったという。
しかし奇妙なことに、寝ている自分を真上から見下ろしたり、建物の屋根をすり抜けてから空を飛んだりした記憶がある。
いやにくっきり、はっきりと。
呪医が言うには、この薬は体と心を切り離してから患部を強烈に治す働きがあるのだと。
要するに、副作用として『幽体離脱してしまう薬』だったらしい。
回復後に、お礼の日本酒を持参して呪医を訪ね、薬の話をもっと詳しく聞いてみた。
それによると、とある森に棲まう“角の生えた大蛇から採取した薬”だという。
“夢の蛇”と呼ばれるこの蛇は、呪医自身が魔法の歌を歌って森から呼ぶというのだが、大層音楽の好みにうるさいようで、歌が気に入らないと姿を現さないのそうだ。
ちなみに上手く呼べる確率は、これまでの経験では十回に一回程度らしい。
歌が気に入ると森の中から出てきて、角を大人しく削らせてくれるのだと。
しかし歌が途切れると、蛇はこちらに興味をなくしたような様子になり、すぐさま姿を隠してしまうので、削る間は必死で歌い続けなければならない。
呪医からは、「お前に処方した薬は、その角の粉末を使っているのだ」と言われた。
「今はもう滅多に入手できないから、有難く蛇と私に感謝しなさい」とも。
彼も負けずに、「この酒も滅多に入手できない高価なものなんですよ」と言いくるめ、皆で仲良く酒盛りを楽しんだのだという。
(終)