他では見られない姨捨の跡
これは、郷土史家から聞いた話。
長野県の東信地域に『姨捨伝承』がある。
楢山節考のモデルになった姨捨山伝承ではなく、全く別の口減らしの話。
※姨捨(おばすて)
役に立たなくなった老人を山に捨てること。
※楢山節考(ならやまぶしこう)
深沢七郎の短編小説。民間伝承の棄老伝説を題材とした作品で、当代の有力作家や辛口批評家たちに衝撃を与え、絶賛された…(Wikipediaより引用)
明治時代の道路拡張で、姨捨遺跡が発見された。
深山の特定域に置き去りされるわけではなく、村の神社裏ともいえる裏山的地域で。
遺体は土中に立つか座った状態。
他の姨捨遺跡では見られない、とても珍しい状態であった。
最初は墳墓跡かと近郊の史家が調査したところ、姨捨の跡と判明した。
それも、特殊な姨捨習慣が聞き取り調査によりわかってきた。
生産能力がなくなった老人を、首だけ出して土中に埋める。
そして数日間は食事や水などの世話をしていたらしい。
世話は期限があったのか死ぬまでかはわからないが、とにかくそうやって死んでいった。
そして、「その周囲には人魂が時折飛んだ」との結びであった。
この話を聞いた時は、なんとも言えない気分となった。
家族が弱り死んでいく状況を見なければならない。
それも異常な死に方だ。
それとも当時は普通の事として、当たり前に受け入れられていたのか。
例外を出せば村の存亡にも関わることだけに、厳しい約定もあっただろう。
なんとも悲しい歴史である。
(終)