赤ん坊に憑いたよくないもの 2/2

Aの母親は事態が飲み込めず、

凍りついたように立ち尽くし、

 

お師匠さんはダラダラと、

滝のような汗を流していたそうだ。

 

「○△や!」

 

誰かがそう叫ぶと、

あっという間に家は大狂乱。

 

訪問客は履物もそのままに、

逃げ出してしまったらしい。

 

その日の夜、

 

祖父母と母親、

お師匠さんが真っ青な顔で

相談していたところに、

 

少し離れた村にいた住職が

呼び出されて来た。

 

その時は、

 

Aの家(家というより屋敷でしたが)

松明を持った住民が取り囲んで、

 

それこそ今にも焼き討ちをせん

ばかりだったそうな。

 

恐ろしいことに、

どうやら祖父母と母親は、

 

Aを・・・Aの命を奪う方法について

話をしていたらしい。

 

それをお師匠さんが「絶対にさせん!」と、

頑として折れなかったという。

 

「やってみよしな」

(やるだけやってみようよ、

みたいな意味らしい)

 

そう言ってお師匠さんはAを預かって、

お寺で育て始めたそうだ。

 

詳しい話は聞きそびれたんだけど、

3つか4つのお寺で持ち回りみたいな感じで、

 

預けられては次に、っていう

仕組みだったらしい。

 

何年かは、そう大きな事は

起きなかったらしく、

 

Aが12歳くらいまでは

お寺にずっといたそうなんだけど、

 

もう結構なお歳だったお師匠さんは、

亡くなってしまったんだそうだ。

 

お師匠さんのおかげで

なんとかやっていたお寺の協力も、

 

いなくなった途端に、

お互い厄介ものの押し付け合いで、

どうにもならなくなってしまったらしく、

 

かといって住職もどうしようもなく、

結局親元に帰す事になったという。

 

「その時は、えらく無責任だった」

 

と詫びてくれたそうだけど、

同時に「自分ではどうも出来んかった」、

とも言っていたそうだ。

 

○△とかっていうのは、

この地方に伝わる『よくないもの』の

呼び名らしくて、

 

定まった名前があるわけじゃないんだけど、

『そういうもの』に対して使うものらしい。

 

○△は口に出してはいけない。

憑かれるらしい。

 

(Aは『アレ』とか、『そういうの』とかで

表現してた)

 

住職に事情を聞いて、

Aはいくらか混乱しながらも

落ち着いたらしく、

 

「なんで20歳になったら

ここに連れて来い、なわけ?」

 

と、質問をしてみた。

 

すると、それは亡くなったお師匠さんの

遺言だったらしい。

 

「もし20歳までAが○△でなかったら、

もう大丈夫だ」と。

 

(その判断をどうやるのかは

分からないけど)

 

「その代わり、○△だったら、

石で頭を割って命を奪え」

 

とも、遺していたんだそうだ。

 

それほど恐ろしいものだったらしい。

 

住職はそこまで話してから

Aにニッコリと微笑むと、

 

「もう大丈夫やし」

 

と、言ったという。

 

自分とAは村に着くと、実家ではなく、

まずお寺に向かった。

 

ハッキリ言ってボロいお寺だったけど、

 

なぜか、塀に沿って石の玉が

ゴロゴロ並んでる。

 

それも1個2個じゃなくて、

何十個っていう数。

 

なのに、どれも砕けてたり、

真っ二つだったり。

 

ちょうど自分らは、愛車のカブに乗って

住職が帰って来たところに居合わせ、

 

住職はニコニコ笑ってヘルメットを脱ぐと、

手招きで来い来いとやってみせた。

 

「あの、ご住職。この玉って何ですか?」

 

門をくぐって敷地内に入っても、

砕けた玉はそこらじゅうに置いてあり、

気になって尋ねてみた。

 

「ああ、それは『ぼん』や。

(ぼん=坊ずの意。つまりAのこと)

 

○△がぼんを殺そうとしとったんやし。

お代わりやな」

 

縁側に腰掛けて、住職が続けた。

 

「●●さん(お師匠さんのこと)は、

ぼんのお代わりさんが足りんで、

何から何までお代わりさんにしたんやし。

 

ワシのベンツ(愛車カブのことらしい)も、

お代わりさんにされそうやったし」

 

カラカラと笑ったが、

ふと真顔になって、

 

「●●さんはな・・・そうやな・・・」

 

そこまで言うと、スタスタと奥に入って行き、

程なくして何やら包みを持って戻ってきた。

 

「●●さんや」

 

包みを解くと、真っ二つに割れた

漆塗りの位牌が出てきた。

 

「・・・なんで俺にそこまで

してくれたんすかねぇ・・・」

 

無理やり力で割ったような、

不自然な割れ方をした位牌を見ながら、

Aがつぶやいた。

 

しばらく誰も口を開かなかったけど、

日が傾き始めた頃に、

 

Aが持って来たお酒とお土産を置いて、

お寺を出る事を告げた。

 

「大事にしよし」

 

住職はそう言って見送ってくれて、

自分らはAの実家へ向かった。

 

「なぁ、○△って何がダメなん?」

 

帰り道でAに聞いてみた。

 

「○△はな、人が不幸になるだけなんよ。

○△本人が周りを巻き込んで、

どんどん不幸にしていくんだ。

 

なんなのかはよく分からん。

昔は結構あったらしい。

○△がいるだけで不幸になる。

 

何しても人が病気になる、

命を落とす、家が没落する、

作物が取れない、家畜が死ぬ。

 

だから殺さないといけなかったらしい」

 

しかも殺す時は、

聞いてるだけで晩飯が食べられなくなるほどの

内容で殺されるらしい。

 

「この時代にそんなアナクロな、なぁ?」

 

そう言ってAは笑った。

 

後々聞いた話によると、

Aが○△でなくなったという理由は

色々あったらしい。

 

お師匠さんの遺言で、

『お代わりさん』だけは欠かさなかったのが、

 

ある日、突然『お代わりさん』が

壊れなくなったんだそうだ。

 

それで大丈夫、ってなったらしい。

 

(終)

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