ある山村に伝わる物の怪クダンの話
※この話には性的な描写が含まれています
これは、知り合いから聞いた話。
彼女が住んでいる山村には、ある『物の怪』の話が伝わっているそうだ。
一人で山に入ると、足音がヒタヒタと後をついて来る。
振り向いても何の姿も見えないのだが、その場からすぐに逃げ出さないと、地に押し倒されて、あんな事やこんな事をウリャウリャされてしまうのだと。
ただし、大人の女性限定。
この目に見えない物の怪は『クダン』と呼ばれていたそうで、“山に一人で入った女性、それも成熟した者にだけ悪さをしていた”らしい。
襲われて運悪く孕(はら)んでしまった女性は、人面獣身の怪物を産むという。
こうして生まれた怪物もまたクダンと呼んでいたそうで、面妖な外見ではあるが、人語を理解し、性質も大人しく人に懐きやすかった。※面妖(めんよう)=不思議で奇妙
加えて、予言や失せ物捜しの神通力を持っていたので、村では重宝していたそうだ。
酷い凶作の年には、わざとクダンのいる山に単独で女性を登らせたこともあったとか。
「酷い話だよねぇ、まったく。死にはしないけど生贄(いけにえ)だよ。まぁ大昔の与太話だけどね。子供の頃にこの話を聞かされてからは、一生懸命に身を護る術を考えたものだわ」
そう言いながら、彼女は傍らの猟銃を撫でていた。
「・・・・・・。まさか、そのために狩猟免許を取ったの?」
そう問う私に、彼女は「さぁて?」と凄みのある笑みを浮かべた。
(終)