その存在に気がついた時 1/2

今からお話するのは

おそらく毎日、

 

私の身の回りに起こっていただろう

出来事です。

 

それが日常だったから、

気にも止めていなかった。

 

のに、ふと疑問を感じて

確かめた為に、

 

『見てしまった』

 

という、私の体験話です。

 

うちの両親は、

子供の夜更かしには厳しく、

 

私たち姉妹が子供だった頃は、

9時には就寝させられていました。

 

さすがに中学生になると、

 

部活で帰宅も遅くなり、

宿題もたくさん課されました。

 

なので、就寝時間は

だんだん遅くなっていきましたが。

 

その存在に気がついたのは、

そんな頃。

 

夜11時頃になると必ず、

 

犬の散歩をするおじさんが

家の前を通りかかるのです。

 

見たことはありません。

 

鎖を引っ張るような

「チャラッ・・・チャラッ・・・」

という音。

 

鼻歌のような、

一人芝居をしているような、

 

低い声が聞こえてくる。

 

ただ単純に

家の中にいる私たちは、

 

「犬の散歩をしているおじさん」

 

と、認識していたのです。

 

それは、雨の日も風の日も

欠かすことの無い、

 

おじさんの日課のようでした。

 

高校二年の夏だったと思います。

 

その日の夜は台風の影響で、

外は激しい雨と風でした。

 

私は窓に打ちつける

雨音を聞きながら、

 

妹とマンガを読んでいました。

 

ふと耳を澄ますと、

 

雨音に混じって

「チャラ・・・チャラッ・・・」

という、

 

あの鎖を引っ張る音が

していました。

 

私はマンガから顔を上げて、

妹に話し掛けました。

 

「ねえ、まりこぉ。あのおじさん、

こんな台風の日にも散歩してるよぉ」

 

「え?・・・ほんとだぁ。こんな日に

散歩なんて犬も迷惑だよねぇ」

 

「どこのおじさんだろ?

あんた見たことある?」

 

妹も見たことがないというので、

どこの変人か確かめたくなりました。

 

ベランダの窓に顔をくっ付けて

外を見ようとしましたが、

 

激しい雨に窓が滲んで、

おじさんの姿は見えませんでした。

 

今までも何度となく台風はきてるけど、

そんな時も散歩してたのかな・・・。

 

そんなことを考えながら

カーテンを閉めると、

 

私も妹も、

 

もうおじさんに対する関心は

すっかりなくなりました。

 

元の位置に寝転び直して、

マンガの続きを読み出しました。

 

日常の物音を

ほんのちょっとでも気に止めると、

 

その音に対して

妙に敏感になることがあります。

 

次の日の夜、

 

私は、あの鎖を引っ張る音と、

おじさんの鼻歌が、

 

遠くにある時から

気がついていました。

 

おじさんが私の家に

かなり近づいてきた様子なので、

 

カーテンをちょっとだけ開け、

 

昨日と同じように

窓に顔をくっ付けました。

 

家の前の道は

街灯がポツポツあるので、

 

そんなに暗い道ではありません。

 

だから姿が見えないわけはないのです。

 

でも・・・。

 

例の鎖のような音と、

男の鼻歌みたいな声は聞こえるのに、

 

どう目を凝らしても

姿が見えないのです。

 

そんなはず・・・!

 

私は思わず窓を開けて、

身を乗り出しました。

 

一刻も早く、人間であることを

確認して安心したかった。

 

そんな動転している

私のすぐ下(部屋は二階)を、

 

姿の見えない『何か』が、

 

「チャラッ・・・ジャッ・・・

ジャラジャ・・・チャッ・・・」

 

と、ゆっくり通過していく。

唸るような声を出しながら。

 

この事は、怖がりの妹には

内緒にしておこうと思いました。

 

でも、黙っているのも

落ち着かない。

 

それで翌日、

 

学校に行くとすぐ、

友達に話をしました。

 

女友達は私が満足する以上の

反応で怖がってくれたのですが、

 

男友達がどうしても信じてくれません。

 

「嘘だと思うならうちに来てみれば?

勇気があるならね」

 

私のこの言葉に反応した

三人の男子が、

 

私の家に来る事になりました。

 

とはいえ、そんな夜中に

男子を部屋に入れるのを、

 

母が許すはずがありません。

 

うちの庭には、

プレハブの物置小屋がありました。

 

ちょっと狭いけど、

 

そこにこっそりと

招き入れることにしました。

 

懐中電灯と、声を録音するための

ラジカセを持って、

 

夜10時半に集合ということで。

 

集まった男子たちは緊張のためか、

いつもより喋りまくっていました。

 

いくら私が「しーっ!」と

睨み付けても、

 

「あーごめんごめん。

・・・それでさ~」

 

と、留まるところ知らず。

 

私はこれから起こることより、

 

母に見つかって怒られることの方を

恐怖していました。

 

この三人を招き入れたことを

後悔し始めたその時です。

 

(続く)その存在に気がついた時 2/2へ

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