偶然見てしまったご臨終の瞬間
昔つき合ってた彼女と
夜道を歩いていたら、
突然、「アッ」と言って立ち止まり、
傍らの家の生け垣を気にしてる。
「どーした、何かあったか?」
と聞いても、
「ウーン」とか言って答えない。
すると、
その生け垣のある家から突然、
何人かの女の絞り出すような
泣き声がした。
えっ、と思って、
生け垣の隙間から中を覗くと、
庭の向こうに木造平屋の
古い家が見える。
縁側に面したガラス戸が
開け放たれていて、
畳の部屋に布団が敷かれ、
その周りを5~6人の男女が
囲んでいる。
一人、背広を着た男が、
布団の中の老人らしき
男の腕を掴み、
首を振っている。
ああ、ご臨終だ、
と一目で分かる光景だった。
すると、オレの肩越しに
家を覗いていた彼女が、
突然、オレのTシャツの
裾を掴んで逃げようとする。
マジで怖がっている。
「どうした?」と尋ねると、
しゃにむに走り出した。
オレも何となく気味が悪くなり、
彼女の後を追った。
その家からかなり遠くまで走り、
駅前の繁華街に近くなった辺りで、
やっと彼女は立ち止まった。
涙目でオレに言うには、
老人の霊みたいなものが
自分の死体を見下ろすように立ち上がり、
すうっと宙に浮かんだ。
そして、ゆっくりと
彼女の方へ顔を向け、
にんまり笑ったという。
目と目が合ったその老人の目が、
黒目だけだったそうだ。
そりゃ、逃げるわな・・・。
ちなみに、
オレは何も見えませんでした。
(終)