邪視という恐ろしい瞳 2/4
「邪視・・・」
「じゃし?」
「いいか、
俺の部屋の机の引き出しに、
サングラスがあるから持って来い。
お前の分も」
「なんで・・・・・・」
「いいから持って来こい!!」
俺は言われるままに、
サングラスを叔父に渡した。
震える手で叔父はサングラスをかけ、
望遠鏡を覗く。
しばらく望遠鏡を動かしている。
「ウッ」
と呻き、
俺に手招きをする。
「グラサンかけて見てみろ」
恐る恐るサングラスをかけ、
覗き込む。
グラサン越しにぼやけてはいるが、
木々の中のソイツと目が合った。
言い様の無い不安がまた襲ってきたが、
さっきほどでは無い。
だが、心臓の鼓動が
異常に早い。
と言うか、
さっきの場所では無い・・・
ソイツはふにゃふにゃと、
奇妙な踊りをしながら動いている。
目線だけはしっかりこちらに向けたまま、
山を降りている!?
まさかこっちに来ている・・・!?
「○○(俺)、
お前しょんべん出るか?」
「は?こんな時に何を・・・」
「出るなら、
食堂に空きのペットボトルあるから、
それにしょんべん入れて来い」
そう言うと、
叔父は1階に降りていった。
こんな時に出るわけないので、
呆然としていたら、
数分後、
叔父がペットボトルに黄色の
しょんべんを入れて戻ってきた。
「したくなったらこれに入れろ」
と言い、
叔父がもう1つの空のペットボトルを
俺に差し出した。
「いや、だからアイツ何?」
「山のモノ・・・山子・・・
分からん。
ただ、俺がガキの頃、
よく親父と山に
キャンプとか行ってたが、
あぁ、あそこの裏山じゃないぞ?
山は色んな奇妙な事が
起こるからな・・・
夜でも、テントの外で
人の話し声がするが、
誰もいなかったり。
そんな時にしょんべんとか撒いたら、
不思議にピタッと止んだもんさ・・・」
そう言うと叔父は、
もう一度望遠鏡を覗き込んだ。
「グウッ」
と苦しそうに呻きながらも、
アイツを観察している様子だ。
「アイツな、
時速何Kmか知らんが、
本当にゆっくりゆっくり移動している。
途中で見えなくなったが・・・
間違いなく、このロッジに
向かってるんじゃないのか」
「じゃあ、早く車で戻ろうよ」
「多分、無駄だ・・・
アイツの興味を俺たちから
逸らさない限りは・・・
多分どこまでも追って来る。
これは一種の呪いだ。
邪悪な視線、と書いて
邪視と読むんだが・・・」
「さっき言ってたヤツか・・・
でも何でそんなに詳しいの?」
「俺が仕事で北欧のある街に
一時滞在していた時・・・いや、
俺らが助かったら話そう」
「助かったらって・・・
アイツが来るまでここにいるの?」
「いいや、迎え撃つんだよ」
俺は絶対にここに篭っていた方が
良いと思ったが、
叔父の意見はロッジに来られる前に
どうにかした方が良い、
というものだった。
あんな恐ろしいヤツの所に行くなら、
よっぽど逃げた方がマシだと思ったが、
叔父さんは昔からいつだって
頼りになる人だった。
俺は叔父を尊敬しているし、
従う事に決めた。
それぞれ、グラサン、ペットボトル、
軽目の食料が入ったリュック、
手持ちの双眼鏡、木製のバット、
懐中電灯等を持って、
裏山に入っていった。
暗くなる前にどうにかしたい、
という叔父の考えだった。
果たしてアイツの視線に
耐えられるのか?
望遠鏡越しではなく、
グラサンがあるとはいえ、
間近でアイツに耐えられるのか?
様々な不安が頭の中を駆け巡った。
裏山と言っても、
結構広大だ。
双眼鏡を駆使しながら、
アイツを探しまわった。
叔父いわく、
アイツは俺らを目標に
移動しているはずだから、
いつか鉢合わせになる、
という考えだ。
あまり深入りして
日が暮れるのは危険なので、
ロッジから500mほど進んだ
やや開けた場所で、
待ち伏せする事になった。
「興味さえ逸らせば良いんだよ。
興味さえ・・・」
「どうやって?」
「俺の考えでは、
まずどうしてもアイツに
近づかなければならない。
だが、直視は絶対にするな。
斜めに見ろ。
言ってる事は分かるな?
目線を外し、
視線の外で場所を捉えろ。
そして、溜めたしょんべんを
ぶっかける。
それでもダメなら・・・
良いか?
真面目な話だぞ?
俺らのチンコを見せる」
「はぁ?」
「邪視ってのはな、
不浄なものを嫌うんだよ。
糞尿だったり、
性器だったり・・・
だから、殺せはしないが、
それでアイツを逃げさせれる
事が出来たのなら、
俺らは助かると思う」
「・・・それでもダメなら?」
「・・・逃げるしかない。
とっとと車で」
俺と叔父さんは、
言い様のない恐怖と不安の中、
ジッと岩に座って待っていた。
交代で双眼鏡を見ながら、
時刻は4時を回っていた。
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