学校の七不思議の正体を探っていたら 2/2

学校

 

壁の向こうからノックのような音が

聞こえてくるのが3時35分だったため、

 

俺達は5限で授業が終わる日を選んで

実行することにした。

 

ノックが聞こえるかどうかを確かめ、

聞こえたらそれに答えてみよう。

 

というのがHの意見だった。

 

「おいおい、それって・・・

まずいんじゃなかったっけ?」

 

と俺。

 

「そのためにアンタを呼んだんでしょ」

 

とH。

 

そして、

 

あっという間に時間は過ぎ、

3時35分になった。

 

と同時に、

俺とHが「おっ」と小さく呟く。

 

・・・ドン・・・・ドンドン・・ドン・・・・・

 

微かに壁の向こうから音がする。

 

ノックと形容するには激しすぎる。

 

むしろ中に閉じ込められた男の子が、

死に物狂いで助けを求めるかのような。

 

音に聞き入ったまま動けずにいると、

Hがいつの間にか壁の正面に立っていた。

 

右手を軽くあげる。

 

「おい・・・」

 

という俺の制止は無視され、

Hは二度三度軽く壁をノックする。

 

途端にピタッと音が止んだ。

 

放課後の廊下に静寂が戻る。

 

奇妙に感じるほどの静寂が。

 

と次の瞬間、

壁が真っ黒になっていた。

 

否、コンクリートの壁が、

 

そしてその奥にあるはずのドアが

消失していた。

 

真っ黒に見えたのは、

 

中にある、いや、

あったかも知れない部屋が、

 

完全な闇だからだ。

 

外からの光すら飲み込んでしまう闇。

 

何年も何十年もの間、

決して光が当たることのなかった部屋と、

 

そこに閉じ込められていた

『何か』の慟哭。

 

※慟哭(どうこく)

声をあげて激しく嘆き泣くこと。

 

闇の奥底から響いてくる壮絶な悲鳴と

Hの悲鳴が聞こえてきたのは、

 

ほぼ同じタイミングだった。

 

Hは部屋に引きずり込まれそうに

なっていた。

 

闇の淵からHの脚を掴んでいるのは、

腐乱した手。

 

成人男性の手だ。

 

Hも俺も、

そして闇の中の『何か』も、

 

悲鳴を上げ絶叫していた。

 

しかし、他の大人たちが

駆けつけてくる気配はない。

 

あるいは先刻の静寂の時点で、

おかしいと気づくべきだったのかも知れない。

 

だけど、

そんなことを考えている余裕はなかった。

 

なにしろ目の前で、

Hが引きずり込まれようとしているのだ。

 

形容し難い恐怖が俺を襲った。

 

とっさにHの腕を掴み、

逆に引っ張った。

 

脚と腕の引っ張り合い。

 

当然Hは痛そうで、

そして怖そうな顔をしていた。

 

やがて男の腕はふくらはぎから

くるぶしへと滑り、

 

足首を掴んだかと思うと、

今度は靴を掴み、

 

最後には靴が脚から抜けて、

闇の中へと吸い込まれていった。

 

慟哭が破壊的なまでに強くなった気がした。

 

そして気がつくと、

 

俺とHはコンクリートで塞がれた、

かつて部屋があったかも知れない場所の前で、

 

二人して泣いていた。

 

時刻は3時36分。

 

どうやら二人とも運良く引きずり

込まれずに済んだようだった。

 

Hの靴は片方なくなっていたが。

 

二人して泣きまくっているのに

気がついた用務員のオバサンが、

 

俺達に近づいてきた。

 

そして俺達から数メートルほどのところで

ふと立ち止まって、

 

顔をしかめたかと思うと、

今度は見る見るうちに青ざめていく。

 

そして大急ぎで職員室へと駆けていき、

やがて俺達の周りは人でいっぱいになった。

 

その後のことは俺もよく覚えていない。

 

大泣きしていたし、

周りの人たちはなにやら騒ぎまくっているし。

 

ただすぐに温かい飲み物が差し出されて、

それを飲んで安心したのは覚えている。

 

救急車で病院に運ばれたことも。

 

俺とHはしばらくの間、

入院することになった。

 

外傷は二人ともなかったが、

精神のケアのためだ。

 

入院中、

 

担任の先生と両親、

それから年配の男の人が面会に来た。

 

担任は年配の男を、

 

「昔、小学校にいた先生だよ」

 

と紹介した。

 

両親はすでに話を聞かされているらしく、

 

男が話を始めると、

そそくさと部屋から出ていった。

 

男は俺とHに、

 

俺達の見たものはおそらく

現実だということ。

 

しかし、

きっと夢や幻と考えた方が、

 

この先に悩んだり苦しんだり

しなくて済むだろうから、

 

そう考えなさいということ。

 

面白半分であの部屋で起こったことを

語ってはいけないということ。

 

そして、

あの部屋で一体何が起こったのか。

 

その全てを話してくれた。

 

俺達は神妙になってその話を聞き、

 

そして彼の言葉通り、

その後は学校に戻っても、

 

二度と暗室に近寄ることもしなければ、

話すこともしなかった。

 

これでこの話はおしまい。

 

ちなみに俺は、

中学から東京の方に引っ越して、

 

そのまま高校も大学も

東京の学校に行ったので、

 

その後、あの『暗室』が

どうなったかは知らない。

 

ただ、

 

最近その小学校の名前で

ネット検索してみたら、

 

校舎の様相が俺のいた頃とは

すっかり変わっていたので、

 

たぶん改装したか、

 

あるいは校舎を移したかなんか

したんだと思う。

 

未だに真っ暗闇な部屋は怖い。

 

さすがに当時ほどではないが。

 

後、Hいわく、

 

「アレはとにかく寒くて寒くて

仕方がなかった」

 

ということだった。

 

ちなみに、

 

七不思議で語られている

部屋の噂に関する真偽のほどは、

 

俺も知らない。

 

ただその部屋で児童が死んだ、

というのは確かみたい。

 

閉じ込められた男の子の恨みが

T先生を巻き込んだのか。

 

それとも、

元から何かよくない部屋だったのか。

 

あるいはその両方かも知れないが・・・

 

(終)

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