記念撮影

 

藤原君の性格の悪さは

救いようがないと思う、

 

夏の今日この頃。

 

藤原君が泊まりに来ることになった。

 

藤原君の可哀相な部屋には

もちろんクーラーなど無く、

 

扇風機すらもない。

 

毎日、氷にすり胡麻をかけたものを食べて、

暑さと空腹を凌いでると言う。

 

雛○沢大災害並に悲惨だと思う。

 

同情した俺は、

 

うっかり奴を招待することに

してしまった。

 

後悔先に立たず。

 

親父は元々仕事でいないし、

母さんは気を利かせて友達と出掛け、

 

家には俺と兄と藤原君という、

激しく微妙な面子が残された。

 

藤原君はこんな時だけ猫を被り、

兄に好印象を与えていた。

 

(キツネみたいな顔してるくせに)

 

そろそろくたばればいいと思うのだが、

中々そうはいかない。

 

俺達はレトルトのカレーを食べ、

 

しばらくは談笑したりゲームをしたりして

平和に遊んでいた。

 

が、だんだんネタも尽き、

微妙にしらけた空気が漂っていた。

 

その時、KYな兄が唐突に

 

「なあ、○○小に行かね?」

 

とキチガイなことを言い出した。

 

その小学校は、

俺と兄が卒業した学校で、

 

生徒数の減少により

他校と統合し、

 

俺の卒業した年には

廃校となった学校だ。

 

そこには今どき珍しい

七不思議が存在し、

 

怪奇現象も目撃され、

 

宿直の先生が途中で逃げ出した

こともある学校だった。

 

つまり兄は肝試しに行こう、

と言ってるわけだ。

 

本当に空気が読めない兄。

 

もちろん俺は行きたくないこと、

この上ない。

 

しかし藤原君はノリノリで、

 

「さすがお兄さん、

話がわかりますね」

 

などと、ニタニタしながら

お世辞を言っていた。

 

今更だがキモイ。

 

結局、流された俺は、

○○小学校に行くことになった。

 

学校に着いた俺達は門によじ登り、

堂々と不法侵入した。

 

セコムとか入ってないのだろうか。

 

不用心だな。

 

などと呟きながら、

校舎に入ろうとした。

 

が、さすがに鍵や鎖がしてあって、

中には入れなかった。

 

「ちぇ、つまんね」

 

「そういえば、

 

ここの七不思議って

何ですか?」

 

藤原君が兄に聞いた。

 

「うん?俺も詳しくは

覚えてないんだけどな。

 

確か、理科室の蝶の標本が

どうとか、何とか」

 

役に立たない情報を垂れ流す、兄。

 

仕方ないので俺が説明した。

 

「二宮金次郎像と記念撮影すると、

体の一部が消えた写真になる。

 

理科室の蝶の標本には、

人間の皮膚で作られた蝶モドキがある。

 

階段脇の掃除用具入れに入ったら

出て来れなくなる。

 

あとは覚えてないけど、

この3つは有名だね」

 

「へえ、ナオ、お前どうでも

いいことだけは覚えてんだな」

 

どうでもいいことすら覚えてない

兄が言う。

 

気にしないことにして俺は続けた。

 

「でもさ、学校入れないから、

 

理科室と掃除用具入れは

確かめようがないし、

 

記念撮影しようにも

カメラないじゃん」

 

だから帰ろう、と俺は言った。

 

しかし、

予想外のことが起きた。

 

「サクランボ、

僕の趣味を忘れたのか?」

 

非常に失礼な呼び方をして、

 

藤原君はケツポケットから

インスタントカメラを取り出した。

 

残念ながら写真が趣味だなんて、

知らないし知りたくもない。

 

「すっげえ藤原!準備いいなー」

 

「準備よくないとサクランボの相方は

務まらないんで」

 

誰がいつ相方になったのだろうか。

 

とりあえず俺たちは、

金次郎像と記念撮影をした。

 

「64ひく61はー?」

「サーン」

 

意味もなくナベアツ風に写真を撮り、

良かった良かったと俺たちは学校を出た。

 

結局、その夜は何もなかった。

 

しかし、

恐怖はその後に待っていた。

 

数日後、藤原君が俺に

電話をかけてきた。

 

あまり出たくなかったが

仕方なく出ると、

 

ものすごく愉快そうな声で、

『今から行く』と言われた。

 

そんなこと言われても、

と言う間もなく電話は切れ。

 

数十分後、

インターホンが鳴った。

 

「こないだの写真が出来たんだけどね」

 

藤原君は嬉しそうに、

封筒から写真を取り出した。

 

「なに?

やっぱり体でも消えてた?」

 

軽口を叩きながら俺は藤原君から

写真を受け取った。

 

そこには俺と藤原君と兄が

ちゃんと写っていた。

 

「消えてないじゃん。

やっぱり嘘なん・・」

 

そこまで言って、

俺は言葉を切った。

 

気付いてしまった。

 

二宮金次郎像の前、

 

ナベアツポーズの俺と、

微妙なピースサインをする藤原君と、

 

その後ろにいる

黒いパーカを着た男。

 

フードをすっぽり被って、

金次郎像の後ろにいた。

 

そして、

その手に握られたハサミ。

 

「な、にこれ」

 

あの時、

こんな男はいなかった。

 

いや、気付かなかっただけで

いたのかもしれないけど、

 

もしあの時、

気付いていたら俺たちは。

 

「ふ、藤原く」

 

「キモチワルイよね。

意味がわからない」

 

藤原君が珍しく、

神妙な面持ちで言った。

 

やはりいくら藤原君でも

変質者は怖いんだなと思ったが、

 

それは違った。

 

「なんで僕が写ってんだろ」

 

言われて気付いた。

 

そう、あの時シャッターを押したのは、

間違なく藤原君だ。

 

三人で行って二人が写って、

一人がシャッターを押した。

 

なら、なんで三人とも写ってんの?

『四人目』の誰かがいたのか。

 

藤原君のように見える、

この微妙なピースサインの人間は、

 

違う誰かなのか。

 

答えは今もわからないが、

 

俺は二度と藤原君と

写真は撮らないと決めた。

 

(終)

シリーズ完

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