エイプリルフールについた嘘が真実だとしたら
今日は4月1日。
そう、『エイプリルフール』だ。
その日、俺を含む男4人で酒を飲んでいた。
「そうそう、折角だからさ、嘘をつきながら話すゲームをしようぜ!」
そう誰かが言った。
楽しそうだな、と賛成した。
まず俺からだった。
「ナンパした女が運悪く妊娠しちゃって、今は一児の父親だよ」と言った。
実際に嘘を言って実感したのだが、嘘をついていいと言われたら、100%の嘘はつけないものだ。
今付き合っている彼女はナンパで知り合ったのは本当だが、妊娠も、まして父親でもない。
次は二人目の奴だ。
「無職で金が無いからさあ、路上生活してるんだぜ」
どこまで本当か分からないのが結構楽しい。
見抜けないからこそ楽しい。
それに、どこまでが本当かなんて気にしない。
そして三人目。
「先月みんなに会えなかったのは・・・実は内緒でハワイ行ってましたあ~!」
ハハハと笑いながら盛り上がっていた。
「アキラ、お前でラストだな。最後に一発面白いので決めてくれよ!」
最後は四人目のアキラ。
アキラは少し微笑むと、静かに言った。
「みんなみたいに僕は上手く嘘をつけないよ。だからこれから作り話をするよ」と。
俺は笑いながら答えた。
「ゲームなんだから深刻な顔するなよ。気楽に話してくれ(笑)」と。
「退屈させないから聞いてくれよ。今から話すのは作り話だから。じゃあ、話すぞ」
だらけた姿勢を正したアキラは、ゆっくりと話し始めた。
全部嘘なんだろ?
——– (ここからアキラの話) ——–
これは昨日の夢の事だ。
目の前にドアがあって、開けるように誰かに言われたんだ。
ドアを開けると、棺桶のような箱が5つあった。
それぞれにダイナマイトのような複雑な線が付いていて、『ここから出たければ真ん中の線に火を点けろ』と書かれた紙があったよ。
箱の中は何も見えないし何も聞こえないから、僕は真ん中に火を点けた。
そしたら、その箱は爆発したんだ。
しばらくすると、またドアがあったから開けたんだ。
今度は棺桶が4つ。
『一番右に火を点けろ』と書いていたよ。
そこから出たい僕は一番右に火を点けたら、また爆発したよ。
少ししたらまたドアが現れて、さっきと同じ。
3つの棺桶があって、今度は真ん中に点けたよ。
次のドアを開けると2つ棺桶があって、『最後の選択、左に火を点けろ』と書かれていた。
僕は思ったよ。
今まで何のために爆発を選んでいたかをね。
だってさ、火を点けないという選択もあったのに、僕は何で火を点けて進んだんだろうって。
悩んでいたら、どこからかコチコチ・・・と時計の音がしたんだ。
棺桶に残り1分のタイマーがあって、どちらかに点けなければ僕も爆発すると思って焦ったんだろうね。
考える間もなく、指示通りの左に火を点けたら、左の箱だけが爆発して、向こうにあるドアの隙間から光が見えたんだ。
そしてドアには、『助かるために指示に従ったあなたの選択は素晴らしいくらい正しいです。人生は運命。あなたにこれから幸運が訪れます』、そう書かれていたよ。
ドアを開けると眩しい光。
足元には両親と兄貴二人と弟の、遺影のような写真があった。
僕は目の前の光に飛び込んだら、朝になっていたんだ。
正確には昼まで寝ていたんだけどさ。
ベッドから起き上がって、ご飯食べようとリビングに行ったら、両親と二人の兄貴と弟が、血まみれで死んでたよ。
僕のパシャマに血がべっとりと付いていたから分かったよ。
僕が家族を殺したんだってね。
大学を3年も浪人して両親はうるさいし、兄貴や弟は見下すから死ねばいいのにって普段から思っていたら、本当に死んでいたんだ。
夢の棺桶の数は5つあったから、棺桶は僕を含む家族そのものだったんだ。
指示に従ったから僕は助かった。
僕の話はこれで終わり。
——– (アキラの話ここまで) ——–
ゴクッと俺ら3人は生唾を飲んだ。
妙にリアルで生々しく、どこか怖くて少しゾクッと震えた。
俺は震えを誤魔化そうと、笑いながら言った。
「お・・・おいおい、確かに最後に決めろとは言ったけどさあ、もっと楽しい嘘をついてくれよ。笑えねえし、全部嘘なんだろ?」
「嘘ならもうついてるよ」
「どの部分?」
「今から作り話をするよってところ」
数日後、アキラは家族を殺した罪で警察に逮捕された。
アキラの夢が本当なのか、それとも夢によって支配されたのか。
実際のところよく分からなかったが、一つだけはっきりしていることがある。
彼は逮捕された時、晴れ晴れとした満面の笑みだった。
後悔すらない、やり遂げた達成感の笑顔。
夢で言われたような『これからの幸せ』は、家族を殺したアキラに来るのだろうか・・・。
エイプリルフールについた嘘が実は真実だとしたら、世界は変わるかも知れない。
その嘘を信じるか信じないかはあなた次第。
(終)