犬鳴峠にある危険な心霊トンネル 2/2
私たちは懐中電灯を灯して登りました。
30分くらい歩くと、
そこには闇をさらに黒く塗りつぶしたような
トンネルが見えました。
中は真っ暗です。
見たこともない暗さでした。
私は背筋がゾゾゾ・・・
と寒くなりました。
「こ・・・これかよ・・・」
Aは震えた声で言いました。
「さっきここで待ってた時は、
まだここまで暗くなかったけど」
私たちは身を寄せ合って、
中を覗きました。
まるで、
地獄に繋がっているかのようです。
昼間なら向こう側の出口の
明るさも見えたでしょうが、
なにせ夜になっているので、
永遠に続くトンネルのようでした。
「こ、ここを抜けると何かが起こるのか・・・」
Aは余計無口になったまま、
いつのまにか私の服を握り締めています。
「お、おまえ、先にいけよ」
Aは震える声で私に言いました。
「ば、ばか、押すなよ」
雨のせいで、
虫の声もない山の夜です。
私たちの懐中電灯の明かりだけが
灯っていました。
しかしその明かりも、
闇に溶け込んでいます。
私はもう駄目でした。
怖いなんてもんじゃありません。
本当に泣きそうでした。
私はAに言いました。
「ごめん、俺、無理。
もう帰ろう・・・」
しかし、
Aは手を離しません。
「ば、ばか!
ここまで来て帰れるかよ」
私はAに押されて、
少し前に進みました。
「無理だって!
俺、耐えれないよ」
「お前が来ないからずっとここで
待たされた身にもなれよ」
「んなこと言ったって!
俺は帰る!」
「だめだ」
Aは私の服が破けるくらいに引っ張って、
トンネルに入っていきます。
私は必死で踏ん張りました。
「やめいって!」
「いいから来いよ!はやく!」
Aはどんどん私をトンネルの奥へと
引っ張ります。
私はさすがにキレて、
Aを振りまわす力で引っ張り返しました。
私の方がAよりも体力があるからです。
しかし、Aの力はいつもより強く、
私は振り解けませんでした。
「大丈夫だって、
そんな怖いことないよ。
一緒に行こうよ」
・・・その時、
私はあることに気がつきました。
「お前、ここで待ってたんだよな?」
「・・・」
「ここに来る途中にあった鉄柵の鍵、
かかってたじゃないか」
「・・・」
「大体さあ、
俺が待ち合わせ場所に来たのは
30分も早かったのに、
ずっと待ってたって、
いつから待ってたんだよ?」
その時、
私をトンネルの奥に引っ張っているのが、
Aだけではない事に気がつきました。
後ろから、横から、
たくさんの手が私をトンネルの中に
引っ張っているのです。
悲鳴が喉から出ない私に、
Aが振り向いて言いました。
「早く死のうよ」
私は気を失っていたらしく、
地元の人が山菜を採りに来た際、
見つけられたそうです。
ひどい熱で数日寝込みました。
そしてAはあの日、
怖くて約束をすっぽかしていた事を
病院のベッドの上で知りました。
それ以来、
Aとは口を聞くことはありませんでした。
(終)